【自由帳】「主権者教育」授業は? 教員と弁護士 手法模索

西日本新聞

教員らを対象にした法教育セミナーでは、実践発表を踏まえ、主権者教育のあり方について話し合った=8月10日、福岡市 拡大

教員らを対象にした法教育セミナーでは、実践発表を踏まえ、主権者教育のあり方について話し合った=8月10日、福岡市

 選挙権年齢が「18歳以上」に引き下げられ、来夏の参院選から適用される運びとなった。学校現場では「主権者教育」が求められている。意見が分かれる問題を、一人の主権者としてどう考え、1票につなげていくか。その判断力、問題解決力を習得する授業とはどんな姿なのか。福岡県弁護士会が8月、教員らを対象に福岡市で開催した「法教育セミナー」には約100人が詰めかけ、関心の高さを示した。

 「高校生20人が文化祭に向け、ダンスの練習に公園に行くと、『ダンス禁止』の立て看板が立っていた。なぜ禁止なのか、その決まりは妥当なのか、解決策はないのか。話し合ってみよう」

 弁護士の春田久美子さんと八木大和(ひろかず)さんは、高校3年生を対象に実践した「出前授業」を報告した。公園は住宅街にあり、近くには病院もある。花火やキャッチボールも禁止されているとの想定。授業では、ダンス禁止への賛成、反対派に分かれて討論、さらに班ごとに解決策を話し合い、発表した。

 「公園は公共の場所」「地域の行事でもある文化祭のための練習は、わがままだろうか」(反対派)

 「騒音問題には配慮すべきだ」「決まったルールは変更できない」(賛成派)

 双方の意見がぶつかり合う。通常の出前授業は、社会科(公民)の一環として、それで終わるのだが、小論文授業をもう一こま加えた。討論を踏まえ、自分なりの主張をどう組み立てるか、その根拠は何なのか、反論にはどう応えるのか。600~800字での論述を求めた。社会と国語両科の教科横断型授業の実践だった。

 授業の狙いは、憲法13条(幸福追求権)、受忍限度、社会通念、民主主義などにある。「子どもの歓声は騒音か」と問い掛ける、住民トラブルも各地で相次ぎ、そうした時代に対応した新たなルールづくりについては、大人も「答え」を出し切れないでいる。

 弁護士たちが授業の主眼に置いたのは「思考の揺さぶり」「なぜの探究」。討論と小論文の各50分授業では、一定の答えに導くには無理があり、そのプロセスにこそ学びがある、というスタンスだ。

 ただ、この日参加した教員たちからは「授業が拡散し過ぎていないか」「まとめ(論点整理)はどうするのか」といった懸念の声も聞かれた。弁護士と教員では、目指すべき主権者教育には微妙な開きがあり、両者合同の授業研究が求められているようだった。

 「社会科で民主主義は教えているが、立憲主義はあまり教えない」。元文部科学省教科調査官で、現在は千葉県内で高校教諭を務める大倉泰裕さんは、講演でそんな話をした。

 教科書に基づき、先生たちは「国民が主権を持ち、国民の意思に基づき、政治は運営されるべきものだ」として、三権分立(立法、司法、行政)の仕組み、憲法の3本柱(平和主義、基本的人権の尊重、国民主権)などを指導する。それと表裏の関係にあるのだが、憲法によって国家権力を制御する「立憲主義」の指導が薄いのではないか、との指摘だった。

 2020年度から小学、中学、高校と段階的に実施される新学習指導要領に、主権者教育として、高校の公民に新たな必修科目「公共」を設けるよう、中央教育審議会(文科相の諮問機関)の部会が提言した。専門性と授業としての分かりやすさの折り合い、さまざまな考えが渦巻く中で政治的中立性はどう担保するのか。そうした視点を含め、主権者教育の模索は始まっていた。


=2015/09/01付 西日本新聞朝刊=

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