<22>博多の老舗で横浜発「家系」 入船食堂(福岡市博多区)

西日本新聞

先代の頃から変わらない店内で高田さんは「気を張らずに入れるような店にしていきたいです」と語る 拡大

先代の頃から変わらない店内で高田さんは「気を張らずに入れるような店にしていきたいです」と語る

福岡市博多区住吉4の15の6。ラーメン550円。油そば450円。つけめん650円。営業時間は午前11時半~午後3時、午後6時半~午後10時。定休日は日祝。092(441)0377。

 下町風情が残る福岡市博多区の路地裏で「入船食堂」は60年以上にわたって営業を続けている。店のたたずまいも名前も“町の食堂”そのものだが、のれんをくぐるとそこはラーメン店だった。7年前に店主の高田英輔さん(38)が義母から引き継ぎ、老舗に新たな歴史を刻んでいる。

 10席ほどしかない店内には低めのテーブルとイス。漫画本が並び、テレビからはワイドショーが流れている。高田さんは「ほとんどが引き継いだ頃のまま。このアットホームな雰囲気が好きでしたから」と語る。地元に愛され、ともに歩んできたことが感じられる店だが、高田さんが作るのは地元によくある豚骨ラーメンではない。「家系(いえけい)」と呼ばれる横浜発祥の太麺と合わせた豚骨しょうゆラーメンで勝負している。

 というのも高田さんは横浜市出身。20歳の頃に飛び込んだのが近所にあった人気家系ラーメン店だった。接客、麺上げ、スープ作りと懸命に働き、バイトから社員に抜てきされた。ただ、ラーメンの作り手として自信を付けるにつれて自分の思いと会社の思いにズレも生じてきた。4年間働いた後に「このままではだめ。他の店も経験してみたい」と横浜の中華そば店に転職した。

 その選択が運命の分かれ道となった。2003年、転職先の店が福岡市の商業施設「キャナルシティ博多」にある「ラーメンスタジアム」に半年限定で出店することになったのだ。白羽の矢が立った高田さんは、縁もゆかりもなかった福岡に向かった。

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 高田さんの一杯は、黄金色のスープに水菜、ウズラの煮卵、厚めのチャーシュー、のりが載る。一口すすると豚骨の濃厚なコク、鶏油(チーユ)の甘みが広がり、それをしょうゆがキリッと引き立てる。縮れ麺をかみ込むと、みずみずしさと小麦の香りが交互に感じられて、心地いい。

 「博多の人たちの温かさが気に入ってしまって」。店がラーメンスタジアムから撤退した後も福岡に残った高田さん。27歳の頃に飲食業の知り合いに誘われ、中洲でラーメン店を出店した。そこにアルバイトで来たのが妻となる理恵さん(34)だった。

 「営業は深夜まで。家族を大事にしたかった」と結婚を機に店を離れた。その後、07年に理恵さんの実家の入船食堂で昼だけラーメンを出すようになり、翌年完全に引き継いだ。

 家系は全国的にブームとなっている。一方で細麺豚骨が主流の九州では苦戦する店も少なくない。そんな中でも根強い人気を誇る入船食堂。その裏側には、トッピングのほうれん草を水菜に変えたり、博多に合わせて甘めのしょうゆを使ったりという試行錯誤があった。高田さんは「変わらなきゃというより、生き残っていくためには向上しないとだめなんです」と言う。老舗を引き継いだからこその覚悟にも聞こえた。 (小川祥平)

=2015/09/03付 西日本新聞朝刊=

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