性暴力の実相(5)支援 前向き歩けるように

西日本新聞

 性暴力取材班は、30人を超える被害者や支援者から話を聞いた。その中で、被害者の多くが経済的苦境に直面している実態が浮かび上がってきた。

 40代のアオイさん=仮名=は24歳のころ、上司から乱暴された。社会人1年目。貯金はほとんどなく、仕事を続けたが、約3カ月後には幻聴が始まった。不眠などから次第に引きこもりがちになり、被害から1年半後、退職した。

 「収入がなくなり家賃も払えない。生きるために消費者金融から借金を重ねました」

 生活費だけではない。被害を思い出したくないと、現場の自宅から転居しようとしても、費用が賄えないケースも多い。

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 犯罪被害者給付金など、公的な支援は存在する。ただ性被害の場合、スムーズに受給しにくい、と支援に携わる本間綾弁護士(福岡)は言う。「身体的な被害と異なり、心の傷は第三者には見えにくい。診断に1年以上かかることもあり、受給が遅れやすい」

 被害者をバックアップしようと、自治体レベルでの支援の輪は広がりつつある。

 佐賀県は2012年に、医療や法的な支援など必要な情報を1カ所で提供する「ワンストップ支援センター」を開設した。13年には福岡県、今年6月にも熊本県がセンターを開いた。熊本県の北沢卓センター長(68)は強調する。「365日、話を聞いてあげたい」。職員たちは、長期的な支援のあり方などを模索しながら、被害者と向き合う。

 被害者側でも、緩やかにつながる「自助グループ」で語り合い、お互いの重荷を分かち合おうという試みが増えている。九州に住むエミさん=仮名=は年に数回、こうした交流会を主宰する。「同じ痛みを抱える人と話すことで、独りで抱え込まなくてよくなる」

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 「自分を大切に思えず、価値がないと思い込んだ時期もありました」。6月中旬、大分市。工藤千恵さん(43)は講演会の壇上にいた。連載の1回目で紹介した被害者である。

 8歳で事件に遭った。25歳の時に結婚し、夫のサポートを得て暮らす中で、フラッシュバックなどの症状は落ち着きつつある。「被害者に寄り添う社会であってほしい」と、昨春からは実名を明かして実体験を語り始めた。

 2年半前。「あの日」以来、初めて事件現場を歩いた。まるで違う場所にいるように風景は一変していた。「とても長い時間、私は被害と向き合ってきたんだ」と気付いたという。

 今もエレベーターのような狭い空間や暗い場所に行くと、胸の奥がざわつくことがある。

 「被害前と同じ私に戻ることはできない。でも被害に遭っても、前向きに生きられる力が人にはあると伝えたい」

 工藤さんの声は同じ境遇にある被害者に、そして社会に向けられている。


=おわり

◆性被害のワンストップ支援センター

 産婦人科がある病院内に相談センターを設ける「病院拠点型」や「センターを中心とした連携型」がある。内閣府は2012年、各都道府県に最低1カ所はあることが望ましいとの考えを示したが、義務付けはしていない。九州では福岡、佐賀、熊本が設置済み。長崎、大分、宮崎、鹿児島も「設置する方向で協議中」としている。

◆「一人で抱え込まないで」 被害時、専門機関に相談を

 性暴力の被害に遭えば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの症状が出て、仕事や人付き合いなどがうまくいかなくなるケースが多いとされる。その対応について、専門家は「被害者は一人で抱え込まず、周囲は『あなたは悪くない』と繰り返し伝えることが大事」と強調する。

 「安心して話せる相手を見つけて相談してほしい。第三者に打ち明けることで、支援につながりやすくなる」。こう話すのは、精神科医で久留米大医学部の大江美佐里講師。過去には、熊本市で強姦(ごうかん)被害に遭った20代の女性が、4カ月後に自ら命を絶ったケースもある。大江講師は「症状は良かったり、悪かったりを繰り返しながら、時間の経過とともに改善に向かう。被害者は決して人生をあきらめないで」と訴える。

 周囲のサポートはどうあるべきか。臨床心理士で福岡犯罪被害者支援センターの浦尚子事務局長は「まず被害者の自責感を軽減してあげることが大事」と言う。PTSDなどに苦しむ被害者を1人で支えることは難しく「本人の意思を尊重した上で、医療や相談機関を頼ってほしい」と話す。

=2015/09/02付 西日本新聞朝刊=

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