【耕運記】ミネラル不足 人も土も 食生活と農業 見直しを

西日本新聞

村上光太郎・崇城大名誉教授

 生活習慣病や食物アレルギーなど現代病の治療・予防に食事の改善は欠かせない。その中でミネラルの大切さに注目する専門家もいる。崇城大(熊本市西区)の村上光太郎名誉教授(70)は長年の薬草研究と実践から健康との深い関係を指摘、食と農業のあり方に警鐘を鳴らす。

 「野菜は薬効成分を含む薬草でもある。現代の農業が効率を重視するあまり、そうならない栽培になった。これを元に戻すための土づくりをしようということ」。村上教授の主張で鍵となるのがミネラルだ。

 ミネラルは栄養素として必要な無機物。骨や筋肉を形成するカルシウム、赤血球のヘモグロビンをつくる鉄など、よく知られる主要ミネラルが七つ。DNAなどの細胞の新陳代謝に関わる亜鉛、がんを引き起こす活性酸素を除去する酵素生成に中心的役割を担うセレンなどの微量ミネラルが九つある。

 ミネラルもビタミンも酵素が働く際のスイッチ役となる。ビタミンがタンパク質のように元素がつながってできている一方、ミネラルは元素そのもの。動植物の体内で合成されるビタミンもあるが、ミネラルは外から取り込むしかない。

 「細胞は日々、生まれ変わる。その代謝に欠かせないのがミネラル。現代人はミネラル不足のため代謝が悪い。体温も低くなり病原菌に感染してしまう」と指摘する村上教授は薬草によって病気の人が健康を取り戻したり痛みが緩和したりする例を見てきたという。「薬効成分(有機化合物)と合わせて、不足していたミネラルが補充され、体の代謝や機能が改善する」というわけだ。

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 現代人のミネラル不足の原因の一つは、ミネラルが欠乏した農地で野菜が栽培され、成分が低下したことにあるという。村上教授は「これまでの品種改良は作りやすさを追求していて、体に良い物をという視点はなかった。化学肥料に頼り、農地は3要素の窒素、リン酸、カリウムは豊富だが、その他のミネラルが少なくなった」と言う。国の食品標準成分表で1982年と2010年の鉄分を比べると、例えばホウレンソウ3・7ミリグラム→2・0ミリグラム、ニンジン0・8ミリグラム→0・2ミリグラムなどとなっている。ミネラルを補給するため、落ち葉や牛ふんなどの堆肥、森のミネラルを吸収した川の草、海藻を畑にすき込むことを提案する。

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 消費者はどうしたらいいのか。「薬草の薬効を取り入れる近道は食べること」と村上教授。山や野に自生する野草や薬草には、ミネラルも多いという。こうした薬草料理の店が九州新幹線新玉名駅(熊本県玉名市)構内にある。薬草ダイニング「Tanpopo(たんぽぽ)」。教授が「薬草を普段の食事に取り入れ、理解を広めたい」とメニュー作りなどをアドバイスする市民団体「小岱山(しょうだいさん)薬草の会」(同市)が運営する。薬草カレーはウド、タンポポ、メナモミなど9種類の薬草入り。焦げ茶色のルーを口に含むと野の香りが広がった。

 現代人の健康に欠かせないミネラルだが、その重要性は「それほど認識されていなかった」(村上教授)。ごく微量のため測定が困難なことなどから科学的に実証するのが難しく、機能や働きが完全に解明されていない面もあるという。村上教授は薬草の成分、血中濃度の測定など多様なデータが蓄積され「解明が進むことを期待したい」と話している。

 ▼村上光太郎・崇城大名誉教授

 広島県出身。徳島大大学院薬学研究科修了。薬学博士。2004年に崇城大薬学部薬用植物園教授。今年4月から名誉教授。著書に「地球は大きな薬箱」(叢文社)「食べる薬草事典」(農文協)など。


=2015/09/09付 西日本新聞朝刊=

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