「戦争にかり出されない地域」をつくる 宮崎に根を下ろす出版社 「鉱脈社」の思い

西日本新聞

■中央にあらがえる暮らしの基盤こそ 
 二度と戦争を繰り返さない思いを原点に、地方のあり方を問い続ける出版社がある。敗戦から27年後の8月15日に創業した宮崎市の鉱脈社。「地方の暮らしを守ることが過ちを繰り返さない第一歩」。戦後日本の歩みを見つめてきた川口敦己社長(71)はそう語る。

 「八紘一宇(はっこういちう)」-。同市の宮崎県立平和台公園の「平和の塔」(高さ約36メートル)にはその文字が大きく刻まれる。塔が造られた1940年当時は戦意高揚のスローガンだった。子女も建設作業に加わり、占領地などから集めた石で築いた。

 川口さんは全国紙の新人記者だった70年、塔建設に関わった人々の証言を集めた連載を執筆した。「塔を見て国民はこうして戦争にかり出されたのかと思った。大政翼賛会的な構造の象徴。70年代は多くの人々が『なぜああなっちゃった(かり出された)のか』と自問していた」と振り返る。

 「八紘一宇」の塔についてはその後、議論が深まらないまま現在に至る。川口さんは「イデオロギーを超えて、広い視点で検証されていない」と憂える。

 なぜあの戦争で国家総動員が起きたか。川口さんはこう考える。日本の近代化は、地方の基盤を壊し、資本や労働力を中央に囲い込むことで進んできた。その結果「中央軸」に陥ったからではないだろうか。「食べるところを中央に握られて国民は動員されてしまった。戦争は、暮らしが根こそぎなくなることから始まるのだから」

 今、地方が再び混迷の時代を迎えていると感じる川口さんは「地方の主体性が末期的。官製の地方創生だ」と危機感を抱く。宮崎に根を下ろす企業としてやるべきこと。それは、企業活動を通じて「戦争にかり出されない地域」をつくることだ。例えば中央主導の大量生産方式からこぼれ落ちていた零細農家と買い手を結び付けて、暮らしを成り立たせる。「私たちは出版事業でそのつなぎ役になろうと思う。ばあちゃんが野菜作りで月7万、8万円も稼いだら十分生活できるでしょ。そんな人がいっぱいいたら、宮崎も結構豊かな土地になるかもしれない」

 しっかりした暮らしの基盤があり、地方が自ら足で立つことが、中央にあらがう手だてだと信じている。

 ●平和の塔を調査 「石の証言」出版 宮崎の市民団体

 宮崎市で戦時中、神武天皇の即位2600年記念事業として建設された「平和の塔」(当時は八紘之基柱(あめつちのもとはしら))を調査する市民グループ「『八紘一宇』の塔を考える会」(税田啓一郎会長)が鉱脈社から「新編石の証言」=写真=を出版した。植民地などから集められ塔の土台となった石の「声」に耳を傾け、歴史的意味を問い直している。

 会は1991年発足。塔建設に向けた政治の動きや敗戦後に「八紘一宇」が撤去され、後に復元された経緯を調べてきた。土台の石1789個には「朝鮮総督府」「山東省水野部隊」など寄贈した国内外の団体名が彫り込まれており、一つ一つを明らかにした。調査結果とともに、石の配置を示す図解も収録している。

 B6判279ページ、税込み2160円。鉱脈社=0985(25)1758。


=2015/09/26付 西日本新聞朝刊=

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