【生きる 働く 第9部】変わるワークスタイル<4>朝型勤務 残業減にも

西日本新聞

早朝に出勤し、無料の朝食サービスを利用する伊藤忠商事の社員たち 拡大

早朝に出勤し、無料の朝食サービスを利用する伊藤忠商事の社員たち

 日本社会にはびこる長時間労働。心身の健康に影響を及ぼし、家庭や生活との両立を阻害するあしき慣習だ。そんな中、働き過ぎを防ぐ取り組みが注目されている。

 午前7時すぎ。伊藤忠商事本社ビル(東京都港区)の食堂に、続々と社員が現れ始めた。おにぎりやパン、バナナに野菜ジュース、ヨーグルト…。「朝型勤務」を支援するために会社が用意した無料の朝食を受け取り、各職場へと向かう。

 同社は2014年5月から、午後8時以降の残業を原則禁止し、午後10時以降は完全に禁止。午前5~8時の割増賃金を25%から深夜勤務と同じ50%へ引き上げることで、早朝勤務へのシフトを促した。

 保険部門で働く男性社員(27)は2年前まで、通常は午後8時半まで働き、11時すぎまでの残業もたびたびあった。制度導入後、8時以降の残業には事前に上司の許可が必要なため、夜から朝の勤務に切り替えた。「確実に仕事のスピードが上がった。朝だと時間に制限があるため、必死で仕事するようになった」。早朝は電話や会議などもなく、集中して働くことができるという。

 退社後の時間を有効活用できるようにもなった。「海外勤務に役立つようにと、中国語のレッスンを始め、ジムに通って12キロの減量に成功した」と男性社員。子育て中の社員からも、「早く帰ることへの後ろめたい気持ちがなくなった」などの声が寄せられているという。

 朝型勤務を導入した結果、時間外勤務は1人当たり毎月4時間減った。開始前、午後8時以降に退社する人は30%に上ったが、現在は7%で、午後10時以降はほぼ0%となった。梅山和彦・人事総務部企画統轄室長代行は「残業ゼロがベストだが、実際は難しい。遅くても午後8時には仕事を終え、どうしても終わらない場合は朝に、という姿勢」と説明する。

 残業手当も、朝食代を差し引いた上で約4%削減でき、電気代やタクシー代の削減にもなったという。

 今夏、政府は始業時間を早め夕方には仕事を終えて生活を充実させようと「ゆう活」を提唱した。官民に導入を呼び掛け、国家公務員が率先して実践することになった。だが、国会会期が大幅に延長された影響もあり、始業時間を早めた中央省庁の職員のうち、定時退庁できたのは65%にとどまった。

 7~8月、会社の方針で出勤時間を1時間前倒ししたという通信会社で働く女性(34)は「残業が減らず、勤務時間が伸びただけ。しかも、早朝勤務には残業代が付かなかった」と漏らす。伊藤忠商事の場合は、朝型勤務の導入に合わせて事業所内託児所の開所を午前7時に早めたが、他社では「保育所の時間の関係で朝型勤務は難しい」など、体制整備が不十分という不満の声もあった。

 日本では週49時間以上働く人の割合は21・6%で、10%前後の欧州諸国より格段に多い。「過労死ライン」に当たる週60時間以上働く人は全体の8・6%に上る。欧州連合(EU)では、週の労働時間の上限規制や、仕事を終え、次に働くまでに一定の休息時間を取る「勤務間インターバル」を定め、長時間労働に歯止めをかけている。

 そんな中、KDDI(東京)は7月から、管理職を除く社員1万人を対象に、退社してから出社するまでに8時間以上の休息確保を義務付ける「勤務間インターバル」を導入した。同時に、社員の健康や安全を管理するため、休息が11時間を下回る日が11日以上となった社員に対して聞き取り調査を行い、勤務状況の改善を指導している。

 日本には法規制がなく、今回、労組の要求で導入が実現したという。茂木達夫・人事部給与グループリーダーは「制度をてこに、長時間労働を是正し、短時間で成果を出せるように社員の意識を変えていきたい」と話している。


=2015/10/23付 西日本新聞朝刊=

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