児童虐待・DVを考える<2>子どもの奨学金やバイト代 搾取 少ない防止策 親権停止も

 10代後半の子どもたちが、親に奨学金の使い込みやアルバイト代の搾取などをされる「経済的虐待」が問題化している。暴力や暴言もなく、育児放棄で命が危ぶまれるほど被害者が幼くもない。奪われるのは、自分に使われるべき金-。児童虐待防止法に定義はないが、子どもの将来にも大きく関わる事態も多く、関係者は頭を悩ませている。

 ▼校納金未納のまま

 10月に入ったころから、九州のある公立高校の職員室に、2年生のミノル(17)=仮名=が毎日訪ねてくるようになった。第一声は「振り込まれた?」。
 心配しているのは未納が続く校納金だ。授業料は無償だが、毎月約1万円の校納金が必要で、修学旅行の積立金も含む。校納金のために奨学金を借りているはずなのに。このままでは修学旅行に参加できない可能性がある。

 ミノルは母子家庭で生活保護を受けている。奨学金が振り込まれるミノル名義の通帳は、自宅には不在がちの母親が管理している。未納が続くため、ミノルが振込日の昼休みに教員と現金自動預払機(ATM)に向かうと、残額は既にゼロだった。家庭訪問で教員が母親と話せても、「払う」と答えて未納のまま。いたちごっこが続く。

 ミノルはバイト代も一部は母親に引き落とされ、残額で食いつなぐ。自分のために使われなかった奨学金を、卒業後に自分で働いて返済することになる。

 「しょうがない。お母さんはああいう人やけん、直らん」。ミノルは時折、諦めた表情になる。同校の40代男性教諭は「苦しい家計を子がバイトで支える構図ではなく『搾取』。児童相談所も関わりづらく、守る手段が少ない」と苦悩を語る。

 ▼子どもが申し立て

 福岡県京築地方でスクールソーシャルワーカーを務める野中勝治さん(34)は、義務教育中心に年間130件ほどの事例に関わるが、年に数件、高校生の相談が舞い込む。

 2年生のダイキ(17)=仮名=は痩せて、皮膚は疾患でただれていた。奨学金による校納金の未納だけでなく、親が面倒を見ていないのは一目瞭然だった。被害児が10代後半だと、周囲から「自力でSOSを出せる」と思われがちだが、野中さんは「その家庭でしか育っていないので、『親が自分の奨学金を使い込むのは正しくない』と判断する指標を持っていない」と、難しさを指摘する。

 教員の説得により、親は奨学金口座の通帳をダイキに渡したが「子に金を使う感覚がなく、今後も健康的に生活していけるとは思えない」(野中さん)と先月、野中さんはある法的措置に乗り出した。「親権停止」だ。

 親権は、子の監護権や財産管理権を含む強い権利。2012年4月から民法の改正で、家庭裁判所が認めれば最長2年の親権停止が可能になった。申立人は親族や児相の例が多いが、今回はダイキ本人が申し立てた。

 親は今になって、優しい言葉のメールを送ってくる。葛藤もあるだろう。野中さんの「自分の人生を第一に考えよう」という言葉に、ダイキは深くうなずいた。


=2015/11/14付 西日本新聞朝刊=

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