児童虐待・DVを考える<3>妊婦の故意の死産、薬物依存 胎児守る体制整備を

西日本新聞

 「胎児虐待」という言葉がある。妊婦健診の未受診や妊娠期の薬物依存が、胎児の健康や生命を脅かすとして、福祉や医療などの現場で「虐待」と認識されるようになってきた。おなかに宿った命を守るには、貧困や望まない妊娠など、悩みを抱えた妊婦へのサポートが鍵を握っている。

 ▼誰にも相談できず

 ある妊婦は、自分のおなかを壁に何度もぶつけていた。妊娠検査薬で、望まぬ妊娠が判明。人工妊娠中絶の費用が捻出できず、おなかは大きくなるばかり…。壁にぶつけることで、死産にしようとしていた。

 福岡市の児童相談所「こども総合相談センター」の河浦龍生・こども緊急支援課長は、そんなケースに関わったことがある。「育てられないけど、誰にも相談できない。思い詰めてしまっていたのでしょう」

 死産にしようとしたり、妊婦健診を受けなかったりする背景には、婚外子や若年での妊娠、貧困や孤立などの葛藤がある。河浦課長は言う。「産んでから、自分で育てるのか特別養子縁組や里親にお願いするのか、考えればいい。望まない妊娠が分かったときにすぐ相談できる窓口が全国にあれば、救われる命がたくさんある」

 厚生労働省は2011年、妊婦の相談窓口を設置するよう都道府県に通知した。妊娠期からの相談を強化するためだ。だが、日本財団「ハッピーゆりかごプロジェクト」の今年の調査では、自治体が関わる妊娠などの専門相談窓口は、全国で29カ所にとどまっている。

 ▼負の感情が影響も

 直接危害を加えなくても、母親が摂取した物や負の感情が、胎児に影響を与える可能性もあるという。

 胎児期から乳幼児期の母子間の非言語コミュニケーションに詳しい長崎大大学院医歯薬学総合研究科の篠原一之教授(58)は、「胎児虐待」をテーマに講演している。3年ほど前から講演依頼が増え、講師を務めた乳児院の施設長研修では、こんな話を聞いた。

 「保護された赤ちゃんが、たびたびけいれんを起こすんです」。母親は薬物依存だった。

 羊水を通じて薬物を摂取し、生まれながらに中毒になっていたため、生後「禁断症状」が起きたのではないか、と篠原教授はみる。

 中毒にならないまでも、篠原教授は、胎児が薬物やアルコールなどの成分を「母の味」として認知する危険性を指摘する。視覚、嗅覚、味覚、触覚は妊娠7カ月で成熟し、そのころ、刺激を受け取る細胞の種類は大人以上にある。その後、生後3カ月までに使われない細胞は消えていくが、その時期に妊婦や母親が薬物を摂取すれば、その成分を含んだ羊水や母乳を飲むため、必要と判断され、本来必要のない成分の細胞が残ってしまうという。

 また、妊婦の感情も胎児に影響するとした研究結果を、篠原教授は10年に発表した。妊娠7カ月の女性十数人を対象に、映画を見たときの胎児の動きを調べたところ、悲しい映画を見ると胎児の手の動きが通常より減少し、楽しい映画では増加した。

 篠原教授は「負の感情が胎児に悪い影響を与える可能性もある。妊婦が思い悩まない環境を整えることが、胎児を守ることにつながる」と話している。


=2015/11/21付 西日本新聞朝刊=

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