【第2部 「消滅」の衝撃 九州から】<1・上>今日も一人、日記1行

西日本新聞

 山の頂にかすむ風車の音が、かすかに耳に届く。森林の切れ目を走る県道沿いに、民家が寄り添う。本土最南端・鹿児島県南大隅町の折山集落。昨年12月、山道を軽トラックで下り、畑に着いた自治会長の宝満(ほうまん)登(81)は目を疑った。

 60~70匹のサルが木に群がり、ミカンにかじりついていた。人の姿に、多くは散り散りに逃げたが、オスザル5匹が居残り、うなり声を上げた。竹の棒を手に近づくと、やっと姿を消した。畑から帰る途中、県道を闊歩(かっぽ)するサル約30匹に出くわしたこともある。

 「人よかサルの方が、うこ(多く)なった」

 集落には28人が住む。19人は65歳以上、子どもはゼロ。死去、入院、転居…。10年で17人減った。民家25軒のうち9軒が空き家だ。 町は人口8169人、高齢化率は県内最高の45・0%。民間の日本創成会議が昨年、「いずれ消滅する」自治体の一つと予測した。

 ある木造の一軒家。上野ミチエ(94)は1人で暮らす。丸1日、6畳間で過ごす日が増えた。

 朝5時、布団に潜ったままテレビをつける。大音量が周りの音をかき消す。「耳が遠いでなあ」。座椅子に正座し、ぼんやり画面を見る。朝昼晩、その場でパンや冷凍めんを食べる。

 毎夜、手帳のカレンダーに1行だけ、日記を書く。

 『一日中ゴロゴロしていた』

 天気が良ければ畑に出る。十数歩先の玄関は使わない。縁側のガラス戸から出て、曲がった腰で、つえをついて畑に向かう。「見苦しくならんご」。黙々と草をむしる。

 『草取りをすます。やっとの事であった』

 食材は移動販売で買う。具合が悪くても病院は行かない。「ほっとけば治る」。救急車は呼べば20分かかる。「何かあったら、しょがね」。波立たぬ日々-。

 『今日も無事に一日を過ごした』

 そんな昨年12月21日、枕元の電話が鳴った。還暦を迎えた次男から。「明日、来るから」。ミチエは思わず、相好を崩した。腰を幾分伸ばし、6畳間に掃除機をかけ始めた。 =敬称略

    ×    ×

 人口が急減し、全国896市区町村は将来、消える可能性がある-。こんな民間政策提言機関の予測を受け、地方に「消滅」の衝撃が広がった。かつて限界集落と呼ばれたムラ、雇用やにぎわい創出を模索する街…。統一地方選を前に、揺れる九州の現場を歩く。

=2015/02/14付 西日本新聞朝刊=

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