【第1部 成長都市の実像 福岡市から】産め働けと言うけれど

西日本新聞

 紅茶を一口含み、上司の男性がにこやかに切り出した。「正社員よりパートの方が子育てしやすいでしょう?」。9月、福岡市内の喫茶店。来春の復職を控え、「個人的」に呼び出された林香奈子(33)=仮名=はメモする手を止めた。

 製造会社に勤める林は昨年12月に長男を産み、育児休業中。「残業できないならリストラですか」「いやいや、あなたが大変そうなので…」。決して「辞めてくれ」とは言わない。でも2時間半、譲りもしない。自主退職を迫る無言の圧力-。「これがマタニティーハラスメントか」

 伏線はあった。採用時に「定年まで働きたい」と伝えると、面接官は「でも子どもができたらねえ」と聞き流した。夜中まで残業が当たり前。妊娠し、定時に帰宅するようになった途端、勤務評価は最低となった。

 残業して保育所の送迎ができるか、子どもが熱を出したら。悩む林をよそに、夫(35)は当然のように残業で深夜に帰ってくる。早めの帰宅や育児休業を頼んでも「無理」の一言で終わる。林は取り残されたような気分になる。

 「なんで私だけが…」

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 なお変わらぬ「男社会」に、女性たちはもがく。

 午後9時。エステサロンでの勤務を終えた野本恵(37)=仮名=は中央区の認可外保育所へ足を速めた。

 夜間中心に不規則な勤務となるパートの野本は、自宅近くの認可に入れない。長女(4)は朝から幼稚園に通い、午後には保育所へ移る。月に計約6万4千円。3万~5万円の月給では足りない。赤字でも働くのは、「ずっと家にいると息が詰まる。築いたキャリアを捨てたくない」からだ。

 野本のおなかには2人目が宿る。喜ぶだけではいられない。共働き世帯が多い福岡市は待機児童が後を絶たない。4月に「ゼロ」だったが8月には267人に。市は本年度中に1200人分を増設するが、入所希望者は年々増えており、「いたちごっこ」は続く。

 「2人とも認可外に入れる余裕はない」。年明けに産んだら、仕事は諦めるつもりだ。

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 「成長戦略で女性活用」。新聞をめくりながら、会社員の福田真由美(50)は苦笑した。人口減少による労働力不足を女性の雇用で補う、との政治記事。「家庭での役割は変えないまま、男性と同じように働けなんて虫がいい」と思う。

 未婚、母親と2人暮らし。30代で見合いした時、相手に「僕を好きにならなくて良いから、僕の母親の面倒をみて」と言われ幻滅。「天神に着ていく服もない」。子持ちの友人たちはみな、疲れ果てて見えた。

 福田が今、通うのは天神のマンションの一室。表札には「NPO女性おひとりさまの会」。離婚などで一人になった50~80代の女性たちがランチし、観光地に繰り出す。「未婚でも、都会なら周りの目が気にならないし、楽しめるし」

 毎日、メンバーから「風邪ひいてませんか」とメールが届く。お互い、返事が途切れたら、SOSのサイン。「私にはちゃんと、味方がいる」 =敬称略

=2014/11/06付 西日本新聞朝刊=

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