【第1部 成長都市の実像 福岡市から】<4>若者つなぎとめるには

西日本新聞

 「九大まで出ても、学んだことを生かせる企業がないんだよなあ」。九州大大学院生の野田耕正(25)は、福岡市・天神のビル群を前に思う。

 学生時代はフィリピン、南アフリカなど6カ国に計13回渡航し、鉱山の鉱脈や地質を調べた。論文が認められ、海外の地質学会で英語を駆使して発表もした。

 昨年12月から、企業の採用担当者が次々と大学に来た。油田開発、金属製錬など約20社。ほとんどは東京に本社、福岡市の企業はゼロ。夕方から、料理店でもてなしてくれた。「ぜひうちへ。海外も行けますよ」

 2社の内定をもらい、都内の鉱山採掘会社を選んだ。東証1部上場企業だ。

 九州大によると、昨年度は大学院の修士課程を修了した約1400人のうち、5割近くが都内で就職。福岡県内は1割強にとどまる。

 来春、高度な専門知識を蓄えた“頭脳”がまた一人、福岡市を離れる。

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 市内の大学・短大生は7万7千人。人口の約5%。全国20政令市のうち、その割合は2番目に高い。

 熊本市出身の中村隼人(24)=仮名=にとって、進学先は無条件で福岡市だった。天神のにぎわいに憧れた。私立大でコンピューターのプログラミングを学んだが、市内で仕事は見つからなかった。

 結局、居酒屋の全国チェーンに就職。「ブラック企業」とうわさされていたが卒業が迫り、目をつぶった。配属先は都内。午後3時ごろから夜明けまで、調理や接客で立ちっぱなし。満足に食事も取れない。上司は社員の辞表を破り捨て、「人間として甘い」と怒鳴りあげた。同期150人は半年で半分に。自身も1年と持たず、福岡市に舞い戻った。

 再就職先はホームページ制作会社の営業。月給は居酒屋時代の30万円から10万円下がった。契約のノルマを達成できず、さらに5万円ダウン。「もう生活できない」。今、失業して2カ月。貯金を崩し職を探す。

 「福岡市」「正社員」。条件を満たす会社が遠い。市内で働く人の約4割は非正規労働者-。

 九州各地から吸い上げた若者たちを、都市はまかない切れずにいる。

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 小島翔太(26)=仮名=も非正規で働く一人。長崎県・壱岐から「高卒で働くのは嫌で」、福岡市内の専門学校を卒業した。障害者の作業所は2年、飲食店員も1年半で辞めた。収入が低く「理不尽」と思った。

 最近、8年前に離れた故郷を思う。島には50代後半の両親がいる。福岡市に出ていた高校の先輩が近々戻り、居酒屋を始めるとも聞いた。結婚を考える彼女(27)も同郷だ。「田舎暮らしも悪くないかもな」

 アルバイトの傍ら、気に入った福岡市の洋服店や雑貨店に通い詰め、店長と話し込む。「経営のこつ、何ですかね」。彼女と地元で店を持つ将来が、おぼろげながら見えてきた。

 仕事はそこそこ、地元に根ざし、友人や家族との仲間意識を大事にする-。じわり増えつつあるこうした若者たちを最近、識者らが「マイルドヤンキー」と呼ぶ。 =敬称略

=2014/11/05付 西日本新聞朝刊=

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