【第1部 成長都市の実像 福岡市から】<3>「勝ち組」が都心に集う

西日本新聞

 高級ホテルを思わせる高い天井、100平方メートル近い部屋。「よし、ここにしよう」。福岡市・天神から地下鉄で4分。介護付き有料老人ホーム「アビタシオン浄水」に入居する藤田信義(87)=仮名=は8年前、下見で即決した。「終(つい)の棲家(すみか)」の一時金は約6千万円。これとは別に、食費などで毎月25万円程度。高いとは思わなかった。

 元内科医。地元の北九州市に元小児科医の妻(86)と開いた診療所で、多い時は一日150人以上の患者を診た。12年前に引退。同市内のマンションで暮らしていたが、「長崎に嫁いだ娘に近い方がいい」と夫婦で今の施設へ。看護師や介護士が24時間常駐し、同じ建物にはスーパー、診療所まである。全80室は、空きが出てもすぐ埋まる。

 夫婦で年間600万円の年金を受け取る。暮らしに不満はない。足を痛めた妻との、タクシーを使った外食が減ったことを除けば。「施設の大浴場に行くのが、最近の楽しみ」。月25万円の小遣いを、使い切れないことが多くなった。

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 1棟、2棟…。福岡市立高取小学校(早良区)の校長、屋宜昌子(57)はこの夏、校区内のマンションを数え始めた。「教室は足りるだろうか」。空き地がマンションに姿を変える。児童数は10年で200人以上増え、今春、新学期が始まった時点で1122人。市内最多の児童が通う。

 県内有数の公立進学校が徒歩圏内。天神や博多と直結する地下鉄の駅も近い。

 「教育熱心な親が多い」。インターネットの情報を見た主婦(41)は、長女の小学校入学に合わせて、市内の別の校区から引っ越した。候補は3校区。「学校の雰囲気は想像通り」。笑みを浮かべる。

 ネットや転勤族らの口コミで広がる「選別」。市内の塾関係者は「高校進学を見据え、特定の住宅地に人気が集中する傾向にある」。夏休み明けの高取小。新しい仲間が33人加わった。

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 酔客が一瞬視線を送り、通り過ぎた。10月下旬、天神に隣接する大名地区。深夜にもかかわらず、衣料品などを扱う人気ショップの前に10人以上が並ぶ。「新作のスニーカーかな」。近くに住む青木秀徳(40)は徹夜の行列に遭遇することがある。大名で半世紀以上続く定食屋の3代目だ。

 目と鼻の先の「天神西通り」は、直近の基準地価によると九州の商業地でトップ。同じエリアには、眺望が売りの24階建て賃貸マンションの建設が進む。

 「問い合わせは150件以上。懐に余裕がある市内在住者の住み替え希望が多い」(不動産業者)。若者向けの店が集まる商業地として発展、一時は住民が減った大名だが、最近は下げ止まり傾向という。

 東京など地域外の資本なのか、青木は最近、「雇われ店長」が増えたように感じる。地元を回るウオークラリーのイベントに協力を呼び掛けると、若い店長は「会社の上司に聞いてみないと」と言葉を濁した。

 新旧住民が混在する都心の“下町”。「気軽に声を掛けられる『あの子』が減った」ことが、何より寂しい。 =敬称略

=2014/11/04付 西日本新聞朝刊=

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