【第1部 成長都市の実像 福岡市から】<2>老いゆく郊外 行く末は

西日本新聞

 雨が降ろうが、風が吹こうが、池のほとりに50人近くのお年寄りが集まる。空が白み始めた午前6時半前、福岡市東区美和台の池近くにラジオの音が響く。

 腕を前から上にのびのびと背伸びの運動から、イチ、ニ、サン、シ…。

 約15年前からほぼ毎日続くラジオ体操。誰かがラジオを持ってくる。仕切り役はいない。それでも夏休みに100人は参加する。

 永光敬介(80)が健康づくりのために一人で始めた。「誰でも参加できるようにしたら、こんなに増えた。このへんは高齢者が多くなってねえ」

 福岡市は昭和40~50年代に人口が膨らみ、郊外にも住宅開発が広がった。美和台校区も、その一つ。すでに子どもは巣立ち、お隣も年を重ねた夫婦だ。

 市内の全143校区で高齢者は最多。郵便受けに、土地売却の査定を勧めるチラシがよく入る。「子どもが独立し、夫婦2人には家が広すぎませんか」「お住み替えの絶好のタイミング」。街も年を重ねている。

     □    □

 福岡市博多区の住宅街。築40年の木造平屋の庭で、大橋秀克(63)は柿の木の落葉を熊手でかき集め、袋に詰めた。「風で飛ばされると、隣の家に迷惑を掛けるから」。家主ではない。空き家を管理する業者だ。

 家主は亡くなり、その妻と長男は関東暮らし。依頼を受けた大橋が月1回、空き家の空気を入れ替え、庭を掃く。「相続か売却か、気持ちの整理がつくまで、お預かりしています」

 数軒先にも空き家がある。かつて雑草が胸の高さまで茂り、庭木が一部、隣家の屋根にかぶさっていた。近くの男性(75)は「火事になったら大変。不審者が住んでも分からない。でも家主とは連絡がつかんし」。たまらず、自治会として雑草を刈った。

 親から家を受け継いでも、県外に出た子どもは住めない。更地にするには解体費がかかり、固定資産税も跳ね上がる。売れもせず、結局、放置-。大橋は「こうした空き家が増えたら、街全体の価値を損なう」。

     □    □

 小さな新築住宅が四つ、所狭しと並ぶ。福岡市南区、長住校区の一角。家と家の隙間は1メートルほど。隔てる塀もない。

 もともと大邸宅が立っていた。業者は「7500万円で販売したが、売れなかった。区分けして若い世代でも買える3千万円台に下げた」。土地を四つに分け、それぞれ家を建てると、たちまち完売した。

 同じく1区画を二つに分けた家に家族5人で暮らす坂本淳子(34)=仮名。「長く暮らす人がいるので、幼稚園から老人ホームまで整っている」。年輪を重ねた街に引かれ4年前、中央区から移り住んだ。

 気がかりは、鉄道の駅がないこと。都心に出るには、起伏のある道をバスで行くしかない。「車がなければ、陸の孤島」だ。

 新築住宅が増え続ける福岡市。いずれ人口は下降線をたどる。住宅が余れば、街も“淘汰(とうた)”は避けられないのか。近くの2棟が空き家になった。一つは新しい家が建ったが、片方はまだ、夜も明かりがともらない。

 =敬称略

=2014/11/02付 西日本新聞朝刊=

PR

連載 アクセスランキング

PR

注目のテーマ