【第5部 終の棲家どこに 高齢者移住】<4>ずれ 田舎は「求む子育て層」

西日本新聞

 「ありゃ。カラスがいたずらしてる」。9月、長崎県五島市の福江空港近く。成石義春(72)は畑を見渡すと、麦わら帽子に手をやり、悔しそうな表情を浮かべた。唐辛子、エゴマ…。今春、地元農家から2千円で畑を借り、思い付くだけの種をまき、苗を植えた。

 東京生まれ。薬品の営業マンを経て関東で30年以上、呉服販売業を営んだ。一人娘は結婚し、妻と死別。第二の人生で浮かんだのは幼少期に抱いた「海のそばで生きる」。田舎暮らしを紹介する雑誌で五島を知り、4月に単身移ってきた。

 古い一軒家の家賃は月に1万5千円。生活費は「10万円あれば十分」。年金とスーパーの総菜売り場のアルバイトで賄う。島の暮らしに不満はないが、高齢者の多さは想像以上だった。

 人口約3万9千人、うち65歳以上が36%。高齢者の移住は医療、介護費の負担が増すリスクがある-。ヘルニアの手術で移住を1年延期し、身をもって感じた。「もろ手を挙げた歓迎じゃないだろうね」

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 島暮らし体験ツアー、空き家を活用したお試し移住…。五島市が本年度計上した関連予算は約3400万円。前年度の23倍に上る。専任の支援員も置いた。

 人口減に伴い、民間提言機関は島の“消滅”の可能性を指摘する。昨年度までの8年間で移住者は159人。「人口増につながる子育て世代を呼び込みたい。一人でも多く」。市の担当者は打ち明ける。

 〈生涯活躍のまち〉。政府の有識者会議は、元気な高齢者の地方移住をこう名付けた。〈地方への新しいひとの流れをつくる〉。

 成石は10月も「実験場」と呼ぶ畑で汗をかいていた。パパイアが小指大の実を付けた。「一つくらいものにしたい。高齢者の雇用につながれば、移住者の希望にもなる。厄介者にはなりたくないからね」。お上が描く青写真は遠い。

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 むき出しの土が白いテープで区切られていた。有明海の夕日を一望できる熊本市西区河内町の丘陵地。ここに、元ミカン農家の原口秀輝(76)が自ら資産をなげうち、手づくりの「街」をつくろうとしている。

 目玉は宅地の「無償提供」。所有する土地約6千平方メートルを昨年から造成、計14区画造った。1区画は約200平方メートル。小学校低学年以下の子どもがいて、移住してくる家族が対象だ。

 1991年の合併前、町議時代に農家を説得し、県道を通した。所有地を掘削すると温泉が出たため、特別養護老人ホームなども誘致、100人の雇用を生んだ。しかし校区の高齢化率は約4割。母校は統廃合もささやかれる。「学校がなくなれば衰退する」。動きの鈍い市に見切りを付け、覚悟を決めた。

 中心部まで車で25分の好立地。来年の公募を前にうわさを聞きつけ、問い合わせが相次ぐ。国策としてさらに高齢者が押し寄せるのなら-。原口はきっぱり言う。「もうたくさん。将来を支える世代を送り込んでくれ」

 =敬称略

=2015/10/27付 西日本新聞朝刊=

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