【第5部 終の棲家どこに 高齢者移住】<2>現実 仕事もケアも余白なし

西日本新聞

 あちこち白煙が立ち上る大分県別府市。民間提言機関に「首都圏から移住者を受け入れる余力がある」と名指しされた湯の町だ。

 自宅を改造して食堂を開く出塚昭彦(75)は食器を拭きながら、大きく息をついた。2006年に長女の結婚式で初めて訪れた。外国っぽく下町のようでもある雰囲気にひかれた。千葉市・幕張のマンションを売り払い、08年に妻和子(70)と移り住んだ。

 本職のインテリアコーディネーターを始めたが、知り合いはわずか。7年間で仕事は5件のみ。インテリアを見てもらおうと始めた食堂も繁盛とはいかず、予約制にした。収入の柱は、月約11万円の年金だ。愛車のベンツを軽乗用車に乗り換え、盆暮れの付き合いもなくなった。「地方に仕事はない」と実感する。

 今年から後期高齢者。横浜から来た移住仲間が老人ホーム探しに10軒ほど回ったと聞き、少し焦った。「東京から移住者が加わったら…」。長女夫婦に負担はかけたくない。急に将来を考え、千葉に残した墓のことが気になり始めた。

    ◇    ◇

 「ヘルパーが辞めて、うちは対応できない。ほかを当たって」。この春。自宅で介助を受ける老夫婦を担当する別府市の50代女性ケアマネジャーは事業所からこう言われ、天を仰いだ。

 在宅介護は給料の割に重労働。ヘルパーのなり手は少ない。求人を出しても半年以上、応募がないのはざら。離職も多く、1カ所に5年勤めればベテランの域だ。めぼしい事業所を4カ所当たったが案の定、うまくいかず元の事業所に泣きついた。こうした調整が月1、2回はある。

 介護施設に空きがあるとされた別府市。確かにここ5年、有料老人ホームが40カ所以上、急増した。「でも」と別の50代女性ケアマネは声を潜める。「入居者を何年も囲い込むため、真剣にリハビリさせず、自立を妨げているような事業者」が少なくないという。

 「信用できる事業者は1割ぐらいでは」

 元気な人が移り住んでもいずれ要介護者が急増すれば、介護保険費は上昇し、まちは停滞しかねない。

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 東京圏の介護難民は13万人とされる。移住候補の41地域で単純に割れば、1自治体当たり移住者は3千人。「仮に全員が介護が必要なら、介護保険の市の負担は4割増」。福岡県大牟田市の6月議会で市が答弁し、どよめきが広がった。試算では、年間の負担額が現在の約18億3千万円から約24億4千万円に跳ね上がる。

 施設への移住者には、もともと住んでいた自治体が介護保険費を負担する特例もあるが、一般住宅を経て施設に移る人への適用について、国は答えを出していない。

 大牟田は約6千人の認知症高齢者を地域ぐるみで見守る“共助”のまちとして知られる。が、活動を続ける大谷るみ子(57)は「元気ならまだしも、介護が必要な人が住民と打ち解けられるかどうか」。一朝一夕に関係は築けない。

 =敬称略

 ●介護人材「不足」5割 九州・沖縄の事業所 「薄給、きつい」イメージ悪く

 高齢化が進む中、介護人材の確保は九州でも喫緊の課題だ。介護労働安定センター(東京)が昨年実施した調査によると、九州・沖縄では回答した事業所の50・6%(868事業所)が、従業員が「不足している」と答えた。その理由として、事業者側は「採用が困難」「離職率が高い」などを挙げており、関係者は「きつい、汚い、給料が安いという認識が根強い。介護離れを食い止めるため、そうしたイメージを払拭(ふっしょく)する必要がある」と指摘する。

 介護職が不足する理由として、354事業所が採用が難しいと答えた。その原因を複数回答で聞いたところ「賃金が低い」が61・6%(218事業所)で最も多く、次いで「仕事がきつい」が49・4%(175事業所)、「社会的評価が低い」36・7%(130事業所)-の順だった。

 厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上になる2025年度、介護職員は現在より約80万人多い253万人が必要と推計するが、13年度の介護職員の離職率は全国で16・6%、九州・沖縄も18・0%。このままのペースで採用難や離職が続けば、38万人が不足する。

 日本介護福祉士養成施設協会(東京)によると、介護福祉士の養成施設(大学や専門学校など)は本年度、全国で379校。ピークだった08年度から7年間で55校減った。少子化の影響もあって入学者が減り、10年度は定員の75・7%が集まったが、本年度は50・0%にとどまる。

 千葉一也事務局長は「国が就学支援や給与水準の向上に積極的に取り組むべきだ」と指摘する。

=2015/10/25付 西日本新聞朝刊=

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