【第3部 縮みゆく自治体】<2>インフラ 受益と負担 目算狂い

西日本新聞

 でこぼこの山道に揺られながら、宮崎県串間市の上代田集落に軽トラックで駆けつけた工事業者の河野栄次(73)。1月、道路の舗装が裂け、水が噴き出していた。重機で道路を1メートル掘り、破裂した「簡易水道」の水道管を取り換え、コンクリートで埋め戻す。

 朝から夕方まで7時間。この道を、誰一人通らなかった。近くには空き家が1軒だけ。かつて10軒近くあったという家々は取り壊され、更地が広がる。

 地中に眠る水道管と宅地をつなぐ「引き込み管」は個人の持ち物。空き家の持ち主の同意なくして、簡単には撤去できない。

 修繕費は市の負担。元住人の“財産”を守るため、「誰がいつ使うか分からない」(市の担当者)水道管を修理し続ける矛盾-。

 「空き家や古い管が増えたら、こんな修理ばっかり」。稼ぎにはつながるが、河野は釈然としない思いを抱える。市内の水道管約300キロのうち、老朽管は約20キロ。2日に1回は漏水事故が起こる。

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 水道事業は原則、利用料でまかなわれる。

 串間市でも中心街の住宅地に張り巡らされた上水道は、約1万5千人の受益者負担によって維持。他方、過疎地の簡易水道は、利用料だけでは不足する赤字を税金で補ってきた。

 しかし-。人口減が止まらず、簡易水道の赤字は膨らむばかり。国は全国各地の市町村に対し、2016年度末までに、上水道と簡易水道の「経営統合」を求めた。上水道の黒字で簡易水道の赤字を埋める苦肉の政策転換だ。

 ただ同市の人口自体、この5年で1500人減り、約1万9千人。上水道の収益は年間500万円ペースでダウンを続けており、16年度には赤字に転落する見込み。「赤字同士でくっついても赤字は明らか。老朽管の更新費もかさむし…」。値上げか、さらなる税金投入か。ライフラインの維持に、市の担当者は頭を悩ます。

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 人口減を全く想定していなかった時代のインフラ整備計画に今、翻弄(ほんろう)される自治体もある。

 福岡県みやこ町。もともと井戸が多い町内に3年後、県営ダムが完成する。事業に着手したのは1974年。1日当たり約3千トンもの水を買う契約を結んだこともあり、町職員は2013年度から民家詣でを続け、“営業”を掛ける。

 「水道を使いませんか。今なら、引き込み管工事は町が負担しますよ」-

 水道利用者は現在、人口約2万1千人のうち約3割にとどまる。このままでは、水余りによる赤字が年間5千万円に上る計算だ。

 同町も人口減と無縁ではなく、「消滅可能性」を指摘された地域。にもかかわらず、町は13年度、ダムの水を「売り切る」前提で、13年後には利用者が現在の約2倍に達する-との事業見通しを国に提出した。

 田園が広がり、井戸が豊富な花熊集落。町のプッシュで15年度に水道が通ることが決まったが、自治会長の熊谷孝二(75)は「井戸はただでうまい水が飲める。金のかかる水道は、枯れたときの予備よ」…。

 ダム建設に端を発した無謀とも思える水道拡張。一度動き始めた巨大な公共事業は軌道修正すらままならない。「将来を見据えた投資」。町はかたくなに、そう言い続けている。 =敬称略

=2015/03/26付 西日本新聞朝刊=

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