【第3部 縮みゆく自治体】<1>議員に何を託すのか 担い手 活動見えず 不要論も

西日本新聞

 白い霧に隠れた緑の山々を見下ろす。町の9割を森林が覆う宮崎県日之影町。雨粒が落ちる中、作業着姿の農業、河野学(66)は原木に育つシイタケを手にした。「太りすぎとる」。収穫が数日ずれただけで値が10分の1に下がることもある。だが雨の日に採ると傷むから手を付けられない。

 河野のもう一つの顔は町議会議員。昨年10月に初当選し、以前のように林業もシイタケ栽培もできなくなった。中学校の卒業式に来賓として出席した後、昼飯も食べず林に向かったが、収穫は間に合わない。

 「自分が犠牲になる。苦渋の決断やった」

 町議選1カ月前の事前説明会。定数8人に対し、出席は4陣営のみ。6人以下ならば再選挙。異常事態を避けようと、地域の有力者たちがかけずり回った。

 河野は自宅で「出てくれ」と口説かれた。「再選挙になれば町の恥。自分が議員を務める間に後継者ができれば…」。河野ら立候補した8人は無投票で町議に。うち半分は農家と兼業だ。

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 もともと14人だった同町議の定数は2006年、10人に削減。人口減少で行財政改革を迫られた結果だが、現行の8まで減らしたのは町民からの圧力だった。定数削減を求める署名に、有権者の約3割に上る1269人が名を連ねた。

 「仕事もせん議員はいらんって、ほとんどの町民が思っとる」。賛同したある男性は声を潜める。

 町長提案の議案を丸のみし、政策条例をつくるわけでもない。「根回しの段階で議案を修正させている」。そんな議員側の論理は、住民には伝わりにくい。

 祭りでは飲む暇がないぐらい酒をついで回る。選挙が近づけば妻を連れて地元で頭を下げる。そんな議員に辟易(へきえき)する町民もいる。

 政務活動費はなく、議員報酬は月に19万4千円だけ。多くの町議が「子育て世代はとても議員になれない」と口をそろえるが、現職の甲斐徳仁(54)には苦い記憶がある。「若い人が議員の仕事だけで生活できるぐらい、報酬を上げないかん」と投げかけたが、同僚議員は首を振った。「町民が黙っちょらんが」

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 町の人口約4千人は25年後に半減し、「将来の消滅」が指摘される。「山村は寂れていく。それを人ごとのように思う町民がいる。議員をつくるのは地域なのだが…」。元町議の山室宗義(77)は、町を覆うあきらめムードを嘆く。

 山室から背中を押され、新人町議となった甲斐睦彦(58)。地元に農産物直売所ができると、Uターン住民を増やすため、町の支援制度を使った「農業塾」づくりを住民に提案した。「執行部をチェックするだけでは受け身。行政との橋渡し役として一緒に地域づくりをすべきでは」。今あるべき「議員像」を模索する。

 薄い存在感、際立つ政治とカネ-。地方議員に注がれる視線は厳しい。月額丸々102万円もらう東京都議から活動日のみ日当3万円の福島県矢祭町議まで、同じ土俵でやみくもに非難されては萎縮するばかり。人口減の時代だからこそ、住民も議員の役割と正面から向き合い、何を託すか考える時期ではないか。

 揺らぐ二元代表制。日之影町の議場には執行部と議員の長机が3列ずつ並ぶ。議員側、最後列の二つの黒椅子は、実は空席。均衡を保とうとするかのように、削減された2議席を今も残す。 =敬称略

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 人口減少社会では議員のなり手が減り、税収は細り、インフラも取捨選択を迫られる。統一地方選を機に、縮小を余儀なくされる自治体の課題を記者がみつめる。

=2015/03/25付 西日本新聞朝刊=

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