【第2部 「消滅」の衝撃 九州から】<7完>生活圏 「限界」線引きする前に

西日本新聞

 ブランコの鎖はさび付いているのに、支柱はピンク、黄、緑と色鮮やか。福岡県八女市立花町の白木地区。ミカン農家の入江博司(61)は孫の華琉(はる)(7)の背中を押す。「上手、上手、ほらいけー」。大きく揺れるブランコ。「ギリギリ、いいよるよ」と両手で鎖を握りしめる笑顔の華琉。

 毎週末の「孫育て」。土曜の夕方、同県広川町に住む長男、翔一(30)が実家に来て、2歳から11歳の孫3人を預ける。一晩泊まり、日曜に翔一と妻が迎えに来て、夕飯を食べて帰る。

 5世代10人の大家族だったミカン農家の入江家。今は夫婦2人。子は孫を連れて親の寂しさを埋め、親は息子夫婦の子育てを支える。広川町と白木は車で20分。親子とも「ほどよい距離感」という。

 ブランコなど遊具があるのは旧保育園の園庭。6年前に閉園した。地元の地域振興会議が、子どもが遊べるようペンキで塗り直し、園庭の砂も入れ替えた。

 白木の人口は1635人。15年前から779人も減った。八女市も「消滅可能性都市」の一つ。だが、振興会議会長を務める入江は気にとめない。「数字だけ追っても意味がない。それより、どう暮らしやすくするか」。転機は4年前-。

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 「限界集落になるかも」。2011年、入江は不安にかられた。3年のうちに保育園が閉園し、立花町は八女市と合併し、白木小学校が閉校。農村を研究する熊本大学教授の徳野貞雄(65)に集落点検を頼んだ。

 白木の3集落の121人から家族構成などを聞き取り調査。50歳以上の住民66世帯に、別居する子どもがどこに暮らすかを聞くと、意外な結果が出た。9割超が白木の外に出ているが、白木から30分圏内に5割が暮らし、1時間圏内では8割に。白木外の子どもと、毎週のように顔を合わせる世帯も半分に上った。

 集落や自治体の境界線でなく、生活圏でとらえる-。徳野は「高齢者の多くは車に乗り、生活圏が拡大した。閉じられた空間の人口減少に過剰な不安を抱かず、生活実態を見つめるべきだ」。人口減少に適応するモデルの一つとして、白木を出た子どもが顔を出す「日帰り集落」であり続けるよう、提案した。

 入江は「白木がいいとこと思ってくれれば、よそに出る人も近くに住んでくれるかもしれん」と思う。

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 高齢化率は42・3%。5割を超えれば「限界集落」とされる。徳野は一律に65歳以上をお年寄り扱いするくくりにも異を唱える。

 「今の65~75歳は、体に無理がきても十分に活動できる新人類だ」

 キウイ畑で77歳の有冨道男は背中を反らし、両足で急傾斜を踏みしめた。72歳の妻、広子はハサミを手に枝を切る。日が明けて暮れるまで。「体が痛い、痛いっていいながらしよる」と道男。2日も雨が続けば気は晴れない。仕事を終え、風呂に入り、お湯割りの焼酎を1杯。広子は「一日のご褒美げな」と笑う。

 自宅の玄関には竹製の貯金箱。振興会議が全世帯に配った。1日1円入れ、皆で地元のために使う。1年で集まるのは20万円ほど。10年かけ、街の防犯灯210個すべての省エネ化を目指す。あわてず、背伸びせず。きょうも日が暮れて、白木に灯(あか)りがともった。 =敬称略

 =おわり

=2015/02/21付 西日本新聞朝刊=

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