【食の力】記者ノート 「生きる源」への気付き

西日本新聞

 1日の平均食費は652円、500円以下の学生も5人に1人-。九州大の少人数セミナー「自炊塾」を指導する比良松道一准教授(農学)の調査からは、学生たちのつましい暮らしぶりがうかがえた。2013年度前期に受講した1年生30人を対象にしたアンケート。1人暮らし24人のうち約6割が自炊していた。

 本紙生活面に1~5日、掲載した連載「みそ汁を味わう」には、塾で学ぶ学生たちに登場してもらった。「料理を作って単位がもらえる」「生活に役立つと思ったから」など、受講の動機の多くは軽いものだったが、授業に臨む姿勢は真剣そのもの。内容の興味深さに加え、やはり「食」が生きることそのものであると気付かされたからではないだろうか。学生同士の会話も「かつお節は削ってそのままみそ汁に入れた。おいしかったよ」など自然と食べることについての情報交換になる。

 参加者がおかずを一品ずつ持ち寄る「弁当の日」は毎週水曜に開かれる。おかずは「酢」「粗食」など毎回違ったテーマに合わせて作る。「彩り」というテーマが出たとき、ある男子学生は部活が遅くなって何を作ろうかと考え始めたのが午前1時近くだった。考えあぐねた午前3時すぎ、一品で彩りは出せないと考え、品数で表すことにした。初挑戦の「玉ネギの天ぷら」と「大学いも」を作り、午前5時に「ニンジンのサラダ」に取りかかる。皮むき器でひたすら削り続け、さらにドレッシング作りに1時間を費やした。完成したのは午前8時。人生初の徹夜だったという。

 真面目に、愚直に取り組む姿勢に頭が下がる。

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 みそ造りの特別授業もあった。学祭の翌日ということもあって参加は男子学生4人。塾を支援する人たちと一緒に、仕込みのほか、みそのテイスティング、料理教室と盛りだくさんの内容に取り組んだ。

 作業は、煮大豆をつぶし、こうじと塩を混ぜ込んで、だまが残らないように練り上げる。前もって大豆は煮ていたので、煮る時間を除けば40分ほどだっただろうか。学生も「あっさり終わってしまった」「こんなに手抜きでいいのかと思うぐらい」「みそ造りってこんなに簡単だったんですね」と声をそろえた。

 みそは、かつて塩分の取り過ぎの原因として標的になった時期もあったが、近年の研究で血圧降下作用があるとして見直されつつある。高い抗酸化力から老化防止や美肌効果も期待される。食物アレルギーの抑制効果についての研究も進んでいるという。

 こうした健康効果や深い味わいと、簡単な仕込み作業とのギャップが、学生たちにそんな感想を抱かせたのだろう。

 熟成期間(6カ月から2年半)の違う7種類のみそは風味や舌触りなど全く違う。「みその奥深さが分かった」「『生きてるみそ』を使いたいと思った」と感想。料理はハンバーグやクリームパスタなど、みそとの意外な組み合わせに目を丸くしていた。

 熟成が進んで食べられるのは春ごろの見込み。「市販のみそと食べ比べたい」という期待の声が聞かれた。

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 連載で紹介したように、みそ汁は脳内を刺激して満足感や安らぎを与え、また食べたいという欲求を引き起こすという。本能に関わる仕掛けがある、「生きる源である食」と呼ぶにふさわしい料理だ。

 受講生は授業でこうした意外なことに気付かされる。それがまた楽しく、一歩を踏み出すきっかけになる。塾にはそんな機会があふれている。

 しばらく塾通いを続けたい。自分自身も何かきっかけになる、気付きを期待している。


=2015/12/09付 西日本新聞朝刊=

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