企業にストレス検査義務化 結果通知は本人のみ 形骸化懸念も 問われる経営側の意識

西日本新聞

 従業員50人以上の企業に年1回の“心の健康診断”を義務付ける「ストレスチェック制度」が、今月スタートした。企業や労働者がストレスに気付き、深刻化する前に労働環境を改善してもらう狙いがある。既に取り組んできた事業所では、どんな効果や課題が出ているのだろうか。

 「職種別にみると正看護師とリハビリ担当者の5人が、ストレスが非常に高いD判定。リハビリは昨年度ゼロでしたから増えましたね」。ストレスチェックを分析した外部業者が、今年の傾向を説明した。

 福岡市内のA病院は、6年前からパートを含む全従業員を対象に、ストレスチェックを行っている。職種や職場ごとにも分析している。事務長は「夜勤があり、対応の難しい患者さんもいて心身のストレスが多い職場。人材確保が難しい中、長く働いてもらうためにメンタルヘルスに配慮してきた」と話す。

 チェックは厚生労働省が推奨する簡易質問票を使う。従業員が「時間内に仕事が処理できない」「最近1カ月間、何をするのも面倒だ」などに回答し自己採点すると、ストレスの状態が4段階で判定される。

 判定結果は病院側も把握している。小さな変化を見逃さず、改善につなげるためだ。ストレスが高い場合は上司や職場管理者とも対策を話し合い、産業医でもある院長が面談するケースもある。ある看護師は子育てが負担となっていることが分かり、勤務時間に余裕のある病棟へ配置転換した。病棟ごとに休憩室を設け、院内保育を充実させるなどの職場改善にもつなげているという。

 今回、ストレスチェックが義務化された背景には、うつ病など精神疾患の増加がある。

 同省の昨年度調査では、仕事が原因で精神疾患になったという労災申請は1456件に上り、うち497件が認定された。いずれも増加傾向にあり、1983年度の調査開始以来最多。このため同省は以前からストレスチェックを推進していた。

 新制度では労働安全衛生法に基づき、医師や保健師など国が認める実施者が行う。従業員がストレスの原因や、心身の自覚症状などを探る質問票に回答すると、結果は本人にのみ通知される仕組みだ。

 ストレスが高いと判定された人が企業に申し出た場合は医師面談を受けられ、企業は医師の意見を踏まえて労働時間を短縮するなど配慮する義務がある。だが、A病院のように職場ごとの分析は努力義務にとどまる。

 ポイントとなるのは、企業側は個々の検査結果が分からないこと。降格や解雇など従業員の不利益にならないようにするためで、明確に禁止されている。

 この点についてA病院の事務長は「本人の希望を聞き、同意がない限り配置転換していない」と強調する。現在、病院側は個々の検査結果を知っているが、今後は本人が申し出ないとストレス状態が把握できない。「うつ状態なのに『大丈夫』と言うケースはよくあり、医師面談が必要な人がちゃんと受けるか心配。個別の状態が分からないと『パワハラに気を付けて』など当たり障りのない指導になる。精神疾患を未然に防ぐという肝心な部分から遠のいている気がする」と不安を漏らした。

 人材サービス会社エン・ジャパン(東京)が今夏、231社に実施したインターネット調査でも、4割近くの企業が「検査結果が会社に通知されないこと」や「高ストレス判定の社員が医師面談を希望しない可能性」に懸念を訴えていた。

 企業のストレスチェック導入を支援する特定社会保険労務士の井上秀文さん(55)は「義務化されても、かたちだけの検査では意味がない。結果を労働環境の改善につなげる経営者の意識が問われている」と話した。


=2015/12/12付 西日本新聞朝刊=

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