【生きる 働く 第10部】地域おこしという仕事<3>母国・中国との橋渡し

西日本新聞

 毎朝近くの温泉に通うのが日課だった。中国・大連出身の姜晶(ジャンジン)さん(40)が別府大(大分県別府市)に留学中、住んでいたアパートには風呂がなかった。

 2009年9月、留学して2日後、初めて温泉に行った。入り方が分からない。何か失礼をしてはいけないと、洗面器を持って、入り方を説明する張り紙を読んでいた。

 「どうしたんですか」と80代の女性が声を掛け、入浴の手順を細かく教えてくれた。それ以来、温泉に行くとたびたび顔を合わせた。別府に温泉が多い理由、中国に温泉があるのかなど、さまざまな話をした。

 姜さんは温泉の入り方を別の留学生たちに教えた。温泉の中ではたくさんの友達ができ、夜行くとまた違うメンバーと話が弾んだ。卒業するまでの2年間、交流は続いた。

 11年9月に卒業後、秋田での勤務を経て大連に戻った。人の多さや、いろんなことが変わるスピードに追いつけない、と感じるようになった。ふるさとなのに。「大分にいると、心が落ち着く」。大分に戻りたい。「第二のふるさと」となった大分での仕事を探していたとき、大分県竹田市の「地域おこし協力隊」の仕事を見つけた。14年4月、移住した。

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 姜さんの主な仕事場は、JR豊後竹田駅近くにある国際観光案内所だ。中国語圏などの観光客に、作曲家滝廉太郎が「荒城の月」のモデルにしたという岡城跡などの史跡や、くじゅう連山、温泉といった観光名所を案内する。

 案内所ができたのは今年4月。まだ認知度が低いためか、案内所を訪れる中国人観光客は多くない。「中国人観光客が来たら、一緒に城下町を歩きます」。同市のウェブサイトや会員制交流サイト(SNS)で観光情報を発信したり、国際交流事業の通訳や翻訳を務めたりもしている。

 9月からは週1回、市民向けに無料の中国語教室も始めた。この日、市役所3階の会議室には、8人の受講生が中国語の単語を音読する声が響いていた。姜さんは、受講生から「うちの店で中国人が○○と話していたけど、あれは何という意味ですか」などの質問を受けるという。「中国語教室を開くことで、町の人を通じ、観光客の役に立ちたい」。地域おこしとは、「訪れる人が増え、地域がにぎやかになること」。自分の仕事がそれに役立てばうれしい。

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 竹田の好きなところの一つは、知らない人同士でもあいさつし、知人がいれば互いに紹介するところだ。着任当初、外国人である自分に対して、市民から抵抗があるかもしれないと心配した。だが、心配はいらなかった。初めて会った人も親しげに中国について聞いてくれた。案内所から城下町に出れば、町の人が「姜さん」と声を掛けてくれる。「寂しくなったら外に出ればいいんです」

 別府大を卒業して大連に帰った12年の暮れ、日中関係は敏感な時期だった。その後、日本に渡りたいことを告げると家族や友人は心配した。「でもそれは政治の話」。大分の人たちの顔を思い浮かべた。

 今の目標は二つ。一つは、中国語圏からの観光客を増やし、市民の「若い人が増えるといいね」の声に応えることだ。もう一つは、自分を通じて竹田の人に中国を好きになってもらうこと。「報道を通さない、本当の中国、中国の人に触れてほしい」。国ではなく、人が出会うことで、何かが生まれるはずだ。自分がそうであったように。

 任期は長くてもあと1年半。その後も竹田に残れるように、仕事探しにも取りかかるつもりだ。


=2015/12/17付 西日本新聞朝刊=

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