【貧困の現場から】(3) 支援つながり母子再起

西日本新聞

 中学1年の海斗(13)は学校を休んで毎日、母陽子(46)の世話をし、料理を作り、洗濯もした。「お母さん、俺がおらんとトイレもいけんから」

 小5の美咲(11)=いずれも仮名=も学校に通いながら手伝った。陽子は重い糖尿病を患い、動けなくなっていた。収入は途絶え、冷蔵庫にあるのは卵とふりかけぐらい。海斗が安いもやしを炒め、美咲は文句も言わず我慢した。

 昨年暮れから今年春にかけ、母子3人の暮らしは追い詰められていた。

    ◇   ◇

 陽子は20年以上看護師として働き、建設関係の仕事をする夫と4人で普通に暮らしてきた。暗転したのは4年前に陽子の実父が亡くなってからだ。

 実母に認知症の症状が出始め、世話が必要になった。陽子自身も持病の糖尿病が悪化し、3年前、患者を抱えるような力仕事が難しくなり、仕事も辞めざるを得なくなった。

 同じころ、夫は酔うと陽子に手を上げるようになり、生活費を渡すこともほとんどなくなった。自宅マンションを売却したが、ローンの借金が残った。陽子はスナックでアルバイトし、何とか生活費や教育費を稼いだ。

 糖尿病のためインスリンを1日4回注射していたが、自己負担は月に2万数千円。どうなるか分かっていたが、お金がなく、注射をやめた。

 今年正月を迎えるころには足が痛くて外出もままならなくなり、スナックも辞めた。住民税も滞納し、1年近く支払いが滞っている水道がいつ止められるか-。

 「もう、母子で心中するしかないのか…」

 今年6月、陽子はつえをつきながら町役場の窓口を訪ねた。生活保護の受給を相談するためだ。

 「ここでは何もできませんよ」。役場の担当者からは受給資格がないと告げられた。代わりに、施行したばかりの生活困窮者自立支援法に基づいて、行政から相談業務を委託された民間団体の連絡先を教えられた。

 「生活保護も受けたいし、病院にもかかりたい」。陽子はすがる思いで民間団体を訪ねた。

    ◇   ◇

 対応は素早かった。困窮者に無料で食料を提供する福祉団体を教えてもらい、その日のうちに米などを受け取ることができた。

 離婚は成立したが、陽子には行き場がなく、前夫との同居を余儀なくされていた。これが、生活保護受給の妨げとなっていた。団体の担当者は初期費用なしで入居できるアパートを紹介し、すぐに母子で転居した。

 保護の申請方法も、身体障害者手帳の受け方も、担当者が付きっきりで教えてくれた。間もなく生活保護の受給が始まった。

 医療費の自己負担分も免除され、糖尿病の治療を再開させると足が少しずつ動くようになってきた。美咲が熱を出しても看病もできる。海斗は「料理の道に進みたい」と夢を口にするようになった。

 自立支援法は4月に施行されたばかり。従来のセーフティーネットでは網からこぼれ落ちていた母子は、ぎりぎりで救われた。

 「もしこの団体に出合わなければ、本当に心中していたかもしれない。私のように、どこに相談していいか分からない人は少なくないのでは」と、陽子は同じ境遇の人を思いやる。

 かつては家事もできなかったが、九州北部の町にある2DKの部屋は今、掃除が行き届く。「普通の生活がありがたい。海斗と美咲が元気であれば十分です」。母子3人は前を向き、新たな歩みを始めている。


 生活困窮者自立支援法 家計が苦しい人の生活再建を支援する制度を盛り込み、「第2のセーフティーネット」と呼ばれる。各県や福祉事務所を持つ自治体に、就労や住居など幅広い相談を引き受ける総合窓口を設置するのが柱。自治体が直接実施するケースと、民間団体などに委託するケースがある。

 ほかにも、子どもの学習支援や親の就労準備支援などのメニューもあるが、各自治体で差があり、支援の質の向上が課題だ。総合窓口の連絡先は自治体に問い合わせれば分かる。

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=2015/12/18付 西日本新聞朝刊=

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