【生きる 働く 第10部】地域おこしという仕事<4完>住民の喜びを物差しに

西日本新聞

 11月中旬の日曜日。佐賀県唐津市の高島小グラウンドに、沿岸の七つの島から100人以上の島民が集まり、ソフトボール大会が開かれた。

 「第3回七つの島島民スポーツ大会の優勝は、神集島チームです」。大会を企画した同市の離島地域コーディネーター、小峰朋子さん(46)の声に拍手が起きた。

 小峰さんは2012年5月、「地域おこし協力隊」として同市に着任した。漁業の衰退や少子高齢化などの課題に直面する七つの島の活性化「島おこし」が、同市から求められた役割だった。方策が用意されていたわけではない。島に誰がいて、何があって、どんな状況なのか。それを知るため、毎日一つずつ島を訪れることから始めた。

 その一つ、向島。島に住む5人の若者と島おこしについて語り合ったときのことだ。一人が申し訳なさそうにこぼした。「島おこしと言われても、そんなこと考えたこともないので何を発言したらいいか分からん」「だいたいここにおるもんでどうにかしようとしてもどうにもならん」。「そう、だね…」と答えるしかなかった。

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 大学院を修了して大阪府庁で働いていたとき、ドイツに留学した。環境に配慮した町づくりについての研究のため、さまざまな地域を訪れた。

 そこで、住民同士が一緒になって町の在り方を決めている姿を目にした。風力発電を取り入れたり、再生可能エネルギーを利用したり。「問題が起きるのも、解決策に真っ先に取り組むのも地域なんです」。小規模で合意を取りやすく、新しいことにすぐ取り組める。「地域は最先端だ」と思うようになった。

 住民たちは皆、自分の町のことを自慢げに話していた。地域に誇りを持っている姿はかっこよく見えた。

 帰国すると、季節や動物、食材などが多様性に富んだ日本の田舎の方が魅力的に映った。福岡市の実家に移り住み、行政書士の仕事をしていたころ、唐津市が協力隊を募集していると聞いた。「やりがいがあって面白そう」と応募した。

 各島は本土との間に航路を持つものの、島同士は独立し、交流が少なかった。共通する課題を抱える島の人たちを、隣の島の人と会わせたい。13年5月、七つの島の特産品を集めて同市の山間部で物産展を開いた。質の良い特産品は完売した。別の島で作られた商品を見て、新たな商品開発をする島が出てくるなど、島民が連帯するきっかけとなった。

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 「活性化」を測る物差しとは何なのか。ソフトボール大会は、お金は生み出さない。でも「来て良かった」「楽しかった」という声は聞ける。活性化とは詰まるところ、「その地域に住む人たちの心の変化だ」と思う。「地域」とは、何か確たるものではなく、そこに生きる一人一人の集まりなのだから。

 各島で映画の上映会を開いたとき、おばあちゃんが終了後に声を掛けてくれた。「50年ぶりに映画の興行を見た。ありがとう」と腰を曲げて言われた。苦労が吹き飛んだ。自分が大切に思う人が喜ぶ顔を見ることが、自分の喜びなのだと感じた。

 今年3月に任期が終了する前、七つの島の代表者が連名で「小峰さんを唐津に残してほしい」と市長宛てに嘆願書を出した。同市は離島地域コーディネーターという新たな役職を作り、小峰さんは期間業務非常勤職員として残ることになった。

 今年4月からは、家族4人そろって唐津で一緒に暮らしている。大好きな島の人たちのために、「必要としてもらえる間は頑張ります」と笑顔を見せた。

 =おわり


=2015/12/18付 西日本新聞朝刊=

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