【貧困の現場から】(4) 未婚の母夜の街に生きる

西日本新聞

 夜も9時を回ると、通りにはミニスカートのキャバクラ嬢や黒服のボーイが立ち始める。

 福岡県警の捜査員が踏み込むと、店内では16歳の少女が接客していた。県警は先月、福岡市内のスナック経営者を風営法違反(無許可営業、年少者雇用)の疑いで逮捕した。珍しい事件ではない。

 「今は暴力団対策の影響で警察の取り締まりが厳しく、未成年者は無許可の店で働くしかない」。九州最大の歓楽街、福岡市・中洲の事情通はこう明かし、「そういう子たちは18歳を過ぎて、九州各地から稼ぎのいい中洲のキャバクラに出てくる」と声を潜めた。

 そんなとある盛り場の一角。ラウンジのボックス席で奈央(仮名)は焼酎の水割りを作っていた。

    ◇   ◇

 「君、いくつ?」

 「21でーす」

 正直に答えられるようになったのは最近のこと。5年前、16歳から歓楽街で働いてきた。「ハタチ」と偽って。時給は2千円。客の勧めで酒を飲めば「ドリンクバック」は1杯200円、「同伴出勤」すればさらに加算され、一晩で1万5千円以上になる。

 奈央が小学2年の時、父親の暴力に耐えかねた母が自分と弟の手を引き、家を出た。縁もゆかりもない土地で、母は飲み屋で働き2人を育てた。奈央には、貧しかったことと、学校で方言が分からず苦労した記憶がある。

 中学入学後に母は再婚。継父は優しかったが、新しく弟や妹が生まれると、奈央は「居場所がない」と感じるようになった。友達の家を転々とし、中学卒業後、ラウンジでアルバイトを始めた。

 17歳のとき、同じ年の恋人との子を妊娠。中学時代に2度中絶手術をしており、「もうおろしたくない」と出産を決めた。客には「カクテルいただきまーす」と言いながらジンジャーエールを飲み、おなかの膨らみを隠して妊娠8カ月まで店に出た。

 女児を出産。恋人とは別れ、ラウンジは週2日に減らして居酒屋、エステ店、祭りの夜店と四つの仕事を掛け持ちして娘を育てる。「ほんとはもっと一緒にいたい。超かわいい。まじ親ばかになります」

 娘は昼は保育園、夜は近くに住む祖母宅で過ごす。生活保護で暮らす祖母も余裕はなく、「おむつ代」として月4万円渡す。残った分は娘の将来のために貯金に回す。もし祖母が体を壊したら、貯金が底を突いたら-。そんな不安が時折頭をもたげるが「立ち止まってはいられない」。

    ◇   ◇

 奈央が働く盛り場には、中卒で働き、10代で出産したシングルマザーが少なくない。彼女たちの多くもまた、母子家庭育ちだ。

 行き場のない少女を、時に法を犯しながら受け入れる夜の街。「みんな頑張って育ててる。でもどうしても駄目で、乳児院や児童養護施設に預けた人もいます」

 出勤前、アイラインを強調したメークの奈央に、3歳の娘が「ママー」と無邪気に駆け寄った。

 若年出産と貧困 人口動態統計によると、2014年の出生児のうち母親が10代なのは1万3011人(全体の1.3%)。その約8割は婚前妊娠。労働政策研究・研修機構の調査では、出産年齢が若いほど母子世帯、低収入となる割合が高い。子の養育環境も厳しいことが予測され、児童虐待が起きやすいと指摘される。

 DV被害者や子どもの支援に取り組む北九州市のNPO法人「FOSC」によると、貧困家庭で育つ少女は生活のために歓楽街に働きに出て、若年出産する傾向がみられる。野口真理子理事長は「寮を完備し、孤立した少女を迎えている性産業もある。彼女たちがそこに流れざるを得ない現状を改めなければ、貧困の連鎖は止められない」と指摘する。

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=2015/12/19付 西日本新聞朝刊=

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