【貧困の現場から】(5) 引きこもり15歳「夢ない」 (2ページ目)

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 彩が記憶をたぐる。小学校低学年のころは幸せだった。父は会社に勤め、マンションも買った。

 だが、やがて父の母に対する暴力が始まり、それは激しくなる一方だった。「夜、ふすまが飛んできても目をつぶり、寝たふりをした」。父はギャンブルにも手を出し、約500万円の借金を抱えて自己破産。心を病んでしまった母は、彩が小学3年の冬に1人で家を出た。

 父はタクシー運転手となったが、手取りは10万円前後。家事を全くせず、食事は彩が見よう見まねでカレーやパスタを作った。そうしないと生きていけなかったから。家にはごみが散乱。頭にシラミが湧いていることに気付いた先生が、見かねて家の掃除に来たこともある。

 小5の春、親戚の家に引き取られることになり、クラスでお別れ会まで開いてもらった。だが親戚間でもめて、話が立ち消えになると「いまさら学校に行けない」と登校しづらくなった。その年の冬から小6が終わるまでは、ずっと学校の保健室通い。中学生となり、数カ月は教室に通ったがなじめず、以来ずっと引きこもったままだ。

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 中学進学と同時に、生活保護の受給が決まった母と一緒に暮らし始めた。母の精神状態は安定せず、パニックを起こして児童相談所の一時保護所に入れられた時は「捨てられた」と怖かった。

 母からは「あんたは私を恨んでいるんやろうね」とよく言われる。「恨みはない。母も大変だったのは知ってるから」。母が、自分を置いて家を出たことに苦しんでいるのを、彩は分かっている。一方で「大人は勝手だ」という拭いがたい不信感もある。

 彩は先日、がんばってハローワークに行き、「定時制高校に通いながらできるバイトを探したい」と相談した。この家を出て、アルバイトしながら学校に通いたい。そうしないと、このまま一生抜け出せない気がするからだ。

 しかし、職員からは「引きこもりなのに働けるの」と言われた。何も言い返せず、落ち込んだ。「将来」が見えないまま、彩は今日も、散乱した部屋の中で過ごす。

 精神疾患と貧困 精神疾患と貧困 貧困の背景には、ひとり親や低学歴、非正規雇用などさまざまあるが、病気で働けなくなった結果によることも少なくない。特に親に精神疾患などがあり、適切な支援が受けられなければ、子どもの生活や命にまで影響を及ぼしかねない。

 厚生労働省が2005年1月~14年3月に子どもが虐待死した777事例を分析したところ、実母に「育児不安」があった事例が25%、「精神疾患」と「うつ状態」がそれぞれ15%(複数回答)みられた。

 一方、東京都の05年の調査では、育児放棄などの児童虐待が行われた家庭のうち、3分の1が貧困状態だったことが分かっている。子どもを守る観点から、精神科などの医療機関と保健所、生活保護担当部署、学校、児童相談所など相互の連携が求められている。

=2015/12/20付 西日本新聞朝刊=

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