民謡編<272>筑後の酒造り唄(下)

西日本新聞

 三潴などを入れた福岡県久留米市の「城島」には現在八つの酒蔵がある。このうちの「比翼鶴」は1895(明治28)年の創業だ。年間、一升瓶にして約10万本の日本酒を醸造している。今年は今月12日から新酒の仕込みに入った。

 5代目の二ノ宮啓克(75)は「味がしっかりとして、キレのある酒造りをしている」と語った。

 広い醸造所の一角には、多くを手作業で造っていた昭和20年代までの酒造り道具が小さな郷土資料館のように保存、展示されて歴史を物語っている。

 「私自身は現場で歌っている酒造り唄(うた)を聴いたことはありません」

 労働と一体となった酒造り唄は機械化される以前の、主に戦前の風景のようだ。しかし、二ノ宮が「一人歩きしている」と言うように民謡の中でも酒造り唄は各地で生き続けている。日本酒は古くから信仰や儀式をはじめ祝い酒といった庶民の生活慣習など日本文化と深く結びついている。それだけに酒造り唄は民謡の中でも独特な位置を占めている。

 日本酒の需要は1973年をピークに下降線をたどっているが、海外での和食ブームなどもあり、二ノ宮は「少し持ち直している」と語った。

    ×    ×

 酒造りの工程ですぐにイメージするのは桶の中を杜氏(とうじ)たちが竹棒の先に木板を取り付けた櫂(かい)で撹拌(かくはん)し、酵母の増殖を促す仕込み作業ではないだろうか。「筑後酒造り唄」には「留搗唄(とめつきうた)」がある。

 日本酒造りの特徴は3段仕込みである。あらかじめ造っておいた酒母(しゅぼ)に麹(こうじ)、水、蒸し米を加えて段々に仕込み量を増やしていく。仕込み作業の3段階目「留添え」のときに歌うのが「留搗唄」である。

 〈えんやーれー 清きヨー流れの 筑後の水で ハァ ヨイショヨイショ えんやーれー 造りヨーあげたる ドッコイ筑後酒 ハァ ヨイショヨイショ〉(2番)

 筑後の水から生まれた酒が歌い込まれている。1番では生まれた銘酒が〈明日は座敷で ドッコイ花と咲く〉と喜びを表現している。

 杜氏は桶の中のまざり具合を判断し、櫂を中心に立てて作業終了の掛け声をかける。「留搗唄」の締めだ。

 〈中の芯木に押し立てて良かろじゃなっかん ヨーイヨイのヨイ〉

 歌は酒造りの命である酵母の発酵作用を促進させる円滑剤であった。

 「筑後酒造り唄」は毎年、城島町内で全国大会が開かれ、筑後の酒をアピールしている。 =敬称略

 (田代俊一郎)


=2015/12/28付 西日本新聞夕刊=

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