【生きる 働く 第11部】均等って何? 雇用機会均等法30年<4>育児と時短 揺れる現場

西日本新聞

 上司の一言は腹に据えかねた。「女性はいついなくなるか分からない。おまえはリスクヘッジ(危険回避)要員だから頼むな」

 吾郎さん(30代)=福岡市、仮名=の職場は半数が女性社員。今年は“出産ラッシュ”で女性の3分の1が育児休業に入るが、会社は人員を補充しない。カバーするのはいつも男性や未婚女性だ。

 「女性が『仕事も家庭も』と思うのは当然。でも現実問題、理解できても納得できない」。妊婦なのに夜8時すぎまで働いているのを見ると、彼女たちも気の毒だと思う。

 頑張って新事業を企画すれば自分の負担が増えるだけ。社員全体の生産性が下がっている。「女性が働きやすい会社はみんな働きやすい。そうでないから、うちは業績が悪いんでしょう」。自嘲気味に笑った。

 資生堂は2014年春、百貨店などの美容部員の働き方を見直した。子育て中の短時間勤務者に、平日夜や土日の出勤をできる限り求める内容だ。

 全国約1万人の美容部員のうち、時短勤務者は1100人を超える。売り場が混み合うのは夕方や週末だが、その多くが慣習的にシフトから外れていた。人員不足は契約社員で補っていたが、特定の人に負担が集中し、不公平感もあった。

 混雑時は接客経験を積む場でもあり、社員育成の観点からも状況を改善する必要があった。そこで同社は、上司と部員が面談し、家庭の事情を踏まえた上で勤務時間を決めることにした。98%が遅番や土日勤務など働き方の見直しに応じた。

 この見直しが報じられると、大きな反響が巻き起こった。「女性に厳しい」「時代に逆行している」など批判の一方、「他の社員にしわ寄せがいくのは事実」「今後多くの企業が直面する問題」と理解する声もあった。

 8割以上が女性社員の同社は、仕事と子育ての両立支援に先駆的に取り組んできた。育休制度は法施行より2年早く導入し、子どもが3歳まで(法律上は1歳まで)利用できる。時短勤務は小学3年までが対象で、事業所内保育所もある。日本事業本部美容統括部長の松本聖子さん(53)は「両立の環境は整った。次のステージ、子育てしつつ自分のキャリアも築く働き方を目指す時だ」と話す。

 森永製菓は、社員の男女比は4対1だが、本年度の新入社員は女性の数が男性を上回った。

 人事総務部ダイバーシティ推進担当リーダー、藤本陽子さん(36)は「結婚や出産の前に複数の部署を経験させ、キャリアを積めるよう意識している」と話す。自身も32歳で営業のチームリーダーに抜てきされた。

 子育て中もキャリアが途切れないよう、時短勤務者にもリーダー職を任せる試みも始まった。藤本さんは「育児や介護で働き方が制約される社員はもっと増える。周囲が無理してサポートするスタイルには限界がくる」と指摘する。

 目指すのは「誰もが柔軟な働き方ができる」会社。場所や時間を選ばずに働ける「テレワーク」の導入に向け動き始めた。第一歩として、私物を引き出し一つ分に整理するよう、呼び掛けている。

 ●メモ=情報通信機器の進化

 1968年に発売されたポケットベルで、働き手は社外にいても呼び出されるようになった。85年には携帯電話の原点ともいえる肩掛け型の「ショルダーホン」=写真=が登場。重さ約3キロ、通話時間は約40分だった。同年に通信事業が自由化され、92年にはインターネットの商用利用が始まる。95年に米マイクロソフトがパソコン用基本ソフト「ウィンドウズ95」を発売すると、ネット利用者は一気に拡大。2000年には企業の9割がネットや電子メールを利用し、パソコン保有率がワープロを抜いた。ノート型パソコンやスマートフォンを持ち歩いて働く人も増え、ネット経由で会議や取引ができるように。近年は地方にオフィスを置く企業も増えている。


=2016/01/08付 西日本新聞朝刊=

PR

くらし アクセスランキング

PR

注目のテーマ