【津屋崎ブランチに学ぶ3】幸せに暮らす機会が磁力に 柴田建・九大大学院人間環境学研究院助教

西日本新聞

 地方には今、可能性が広がっている。空き家が安く提供でき、良いコミュニティーなら住みたい人も少なくない。お金をかけずにカフェに改装するなどした借家で暮らすクリエーティブな(創造力のある)若者も出てきている。

 津屋崎ブランチは、その流れの中で地元と地域外の人をつないでいる。移住希望者を対象に行った最初の見学ツアーでは、募集を子育て世代に絞りツアー料は高めに設定した。「子育ての場として慎重に決断し、津屋崎生まれの子どもを育ててほしい」と願ったからだ。地元との交流の機会を設けて暮らしを想像できるようにしたところ全家族が移住した。

 改装では、自宅をあまり変えたくない家主の心情を尊重するし、移住者も子どもが背比べをした柱の傷など生活の跡に喜びを感じる傾向がある。かつての新築にみせるリフォームではなく、その家に刻まれた物語性を生かすようになっているのだ。改装資金が家主になくても、移住者や第三者の資金協力など工夫してリスク分散を図っている。

 「急いではだめ」という山口代表の言葉が重要だ。昨今は移住者の獲得合戦になっており、人口増だけが目的なら短期で成果は上がる。だが、地元と移住者の間にトラブルが起き、地域にダメージを与えることもある。どんな人が地元に受け入れられるか時間をかけ、いい人間関係を築く。その結果、コミュニティーが評判になると移住も増える。

 小さな起業の応援も注目される。都会に比べて生活コストは低く、少ない収入の仕事を複数重ねればやっていける。開店したカフェに、まず友人が来て地元の人との物々交換などからスタートしても、それを繰り返しながら店が成長していく。工場誘致もいいが、一方で、そんなライフスタイルがあってもいい。それが地域を変える力になる。

 津屋崎は、都市化と古い街並みの魅力が両方あって人口が増えている。だから新住民の全員に、まちづくりに同じ関心を持ってもらうのは無理だろう。だが、それぞれの価値観がズレながらも、各自が幸せな暮らしをすること、それをつなぐものがあればいい。地域を元気にしたいと地元住民が始めたお祭りに最近、地元に受け入れられた移住者が担い手として加わっている。人口という基準ではなく、幸せに暮らす機会が増えればいいし、そんな若者は確実に増えるだろう。
 (聞き手は木下悟)

 ▼しばた・けん 1971年、福岡市生まれ。九大卒業後、2000年から現職。住宅、道路などの社会インフラを長持ちさせて持続可能な社会を実現するストック型社会における住宅供給や郊外住宅の可能性などについて研究し、津屋崎でも現地調査を行っている。著書は「現在知vol.1 郊外 その危機と再生」(共著)など。

=2016/01/08付 西日本新聞朝刊=

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