高校受験(1)塾通い 「頑張れ」って言われても…

 夜の帳(とばり)が降りても、そのビルからはまぶしいほどの明かりが漏れていた。

 11月中旬、福岡市内の学習塾。勉強を終えた制服姿の中学生が次々に外に出てきた。時計は午後11時を回ったところ。ビルの前には数台の車が列をつくっている。アオイ(14)=仮名=は冷たい風に肩をすぼめると、1台に小走りで乗り込んだ。運転席にいるのは仕事帰りの父親だ。

 この塾には週に6日、土曜日には別の塾にも通う。学校と塾の「ダブルスクール」で一週間が埋まる。夏休みまでは週4日の塾通いだったが、2学期に入ってからはこんな日々が続く。

 「慣れればつらくないよ。自分だけじゃないし」。学校のクラスでも週4、5日の塾通いは珍しくないという。

 帰宅して入浴し、ベッドにもぐり込むのは午前0時すぎ。大好きな漫画もテレビも我慢。学習効率を上げるため睡眠時間は「6時間以上」と決めているから、息抜きする時間はほとんどない。平日は学校と塾で1日のほとんどを過ごす。夕食は塾の近くで、体に良さそうなメニューの弁当を買って食べるのがお決まりコースだ。

 「家では勉強できないタイプ。友だちもいるし、塾、楽しいですよ」とアオイは笑う。

 第1志望は県内で偏差値トップの私立高校。第2志望も難関の県立校。医者になるのが夢で、医学部の合格率が高い高校を狙う。「人の役に立つ仕事がしたくて。医者はそれが分かりやすいじゃないですか」

 5月ごろ、学校の担任教諭に志望校を告げると、「頑張れ」とだけ言われた。「今のままならいけるぞってこと? 頑張らないと無理? どっち?」。そうツッコミを入れたかったが、返事が怖くて聞けなかった。

 塾の模試で第2志望は「B判定」とまずまずだが、第1志望は「D判定」。塾の先生からは「このままならビミョー(微妙)」と、春から言われ続けてきた。「どっちかに受かればスマホを買ってもらう約束。気合、入れないと」。だが、11月の模試でも第1志望は「D」のままだった。

 担任に志望校を伝える三者面談が迫った11月末。アオイは母親(48)と相談して志望校を変更することにした。県立校は受験せず、別の私立校を増やす。そのほうが試験対策がしやすいからだという。

 ある土曜日の午後7時半、母親は塾のロビーでアオイを待っていた。手元には手作り弁当。アオイは雑談しながら食べると、また教室に戻っていった。

 「こんなに塾に通わなくてもと思うけど、本人がやめないって言うんですよ」。母親は苦笑いした。勉強は学校で十分と思っていたのに、「成績が落ちている」と塾を勧めてきたのは学校側だったという。

 二つの塾で月謝は計5万円ほど。共働きでも、子ども2人の進路を思うと家計に余裕はない。学費が安い県立校に行く選択肢もあったが、私立なら大学受験の対策が充実しており、塾の費用を軽減できる、と読む。3年後に国立大に進んでくれるならとの期待もある。

 偏差値が高い学校を出れば将来が保障される時代ではないとは思うが、親として「できる限り将来の可能性を広げてあげたい」と考える。

 その日、授業が終わると、アオイはひとり、夜道を歩きだした。もう一つの塾で自習するのだという。空の弁当箱を手にした母親は、その背中を無言で見送った。「頑張ろうね」と心でつぶやきながら。

    ■    ■

 私立高校入試が来年2月に本格化、3月には公立高校入試。受験生たちは志望校を決め、本番モードに入った。親子や教師の視点からリポートする。

    ◇    ◇

 通塾率全国平均は6割超

 中学3年生はどれくらい塾に通っているのか。通信教育大手「ベネッセ教育総合研究所」の2013年調査によると、中学3年生の通塾率は64.2%。

 1週間の通塾回数は、3回(30.1%)▽2回(24.4%)▽5回以上(18.1%)▽4回(16.4%)▽1回(9.5%)の順に多く、週の半分以上、塾に通う生徒が3割を超える。

 家庭の経済事情から塾に通えない子どもも多く、経済格差が学力格差を生んでいるという指摘もある。学力上位で知られる秋田県の小中学生通塾率は20%台とかなり低い。

=2015/12/06付 西日本新聞朝刊=

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