高校受験(2)脱エスカレーター 憧れの中高一貫だったけど…

西日本新聞

 信じる道を行きたい―。チヒロ(15)=仮名=は九州北部の私立中高一貫校に通う中学3年生。本来ならエスカレーター式に高校まで進学するはずだった。だがいま、県立高校への進学に向け、受験勉強をしている。

 「今の学校に不満があるわけじゃない。もっといろんな考え方の人に会いたいと思うようになって」

 高校受験を考えるようになったのは中学2年のころ。部活などを通じ、他校の生徒と交流するうち、「周囲の友人にはない視点を持つ人がたくさんいることに気付いた」という。

 クラスには気の合う友人が多い。厳しい校則も嫌いじゃない。先生は教え方が上手で授業も面白い。ただ、限られた人間関係の中で6年間を過ごすことに「息苦しさを感じてしまった。もっと違う高校生活があるんじゃないかな」。そんな思いが膨らんだ。

 県立高への受験を今夏、担任教諭に話したら、びっくりされた。「もう一回、同じところを勉強するのはもったいない」「また友人をつくるのは大変だよ」

 中高一貫校では通常、5年間で中1~高3のカリキュラムを終え、最後の1年を受験勉強に充てる。チヒロは中3のいま、英数国の3教科で高校1年の教科書を使っている。

 大学受験を考え、多くの親が切望する中高一貫校。その憧れの「エスカレーター」から、チヒロはなぜ離脱しようとしているのか。

 中学受験も親の勧めではなく、自身で決めたという。基礎しか教えてくれない、公立小学校の授業は物足りなかった。先生の声が聞き取れないほど騒がしい教室を「ウザイ」と思った。「思春期を迎える中で、雑音はもっとひどくなっていくのでは…」。そんな不安から、公立中学への嫌悪感が募ったという。

 小学6年になってから受験を思い立った。クラスでは4、5人が中学受験に向けて塾通いをしていた。チヒロは後れを取っていたが、塾には通わず自宅学習を選んだ。「あの時は気合で乗り切った」と笑う。

 中学受験は、友人にもほとんど知らせなかったが、卒業前にあった地元公立中学校の見学会を欠席し、みんなにばれた。

 「みんなと気まずくなると嫌だから」。3年前と同じようにチヒロはまた、高校受験を親友にしか打ち明けられないでいる。

 公立小から私立中高一貫校、そしてあえて公立高へ。こうしたチヒロの選択は、両親にとっても驚きだった。

 父親(53)は公立の小中高校に通い、国立大学を出て現在はサラリーマン。「私立中高一貫校なんて、お金持ちの家庭の子が通うところ。まさかうちの子が行くなんて」と思っていた。だが、入学してみると、同じような中流家庭が多く、意外だったという。

 そんな親子の揺れ動く人生に巡ってきた2度目の「まさか」。「本人がしたいことなら大賛成」。父親はそう見守りながらも、胸をなで下ろしていた。学費負担は妻のパートで賄っていたからだ。取材の中で、そのやりとりを聞いたチヒロは驚いた声を出した。「そーなん? 初めて知った。ありがとう」

 チヒロはこの秋、志望する県立高の見学会に出かけた。誰にも気付かれないようマスクを着けて。校舎は今の学校より古いが、先輩と接してみて、「ここに通いたい」という気持ちは強くなったという。

 せっかく仲良くなった友人と離れるのも、2度目。寂しくない? そう問い掛けると、少し考えた。

 「うーん。会えなくなるわけじゃないし。不安はゼロじゃないけど、受験は人生の岐路だから。やっぱり、自分で決めた道を行かないと」

    ◇    ◇

 増える中高一貫校

 特色ある学校づくりの一環として学校教育法が改正され、1999年から導入が進んでいる。一つの学校で6年間学ぶ「一体型」、校舎が隣接する「併設型」、中学、高校間で合同カリキュラム編成や教員交流を深める「連携型」がある。高校入試の負担軽減、中学校と高校の接続を円滑にするなどのメリットがある。ここ数年、公立中高一貫校の新設が目立っている。学力強化の狙いが色濃く、カリキュラムの前倒し、大学受験競争の低年齢化に懸念の声もある。

=2015/12/13付 西日本新聞朝刊=

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