高校受験(4)記者ノート 15歳、厳しい現実と格闘中

西日本新聞

 福岡県内のある学習塾。取材を終えた後、ベテラン講師のつぶやきは意外だった。

 「本当は塾なんか行かずに、自分で学ぶ力を身に付けるのが一番だと思いますよ」

 受験勉強は「テクニック」だという。「レベルの高い高校でも、ポイントを絞って生徒に覚えさせれば、合格できる」。一方で、背伸びして猛勉強し、念願の高校に滑り込むように合格した生徒の父母の中には、合格発表と同時に、また入塾手続きを相談してくるケースも少なくない。「これが正しいのかな」。塾講師は苦笑いした。

 「知識詰め込み教育」が批判を浴び始めたのは、受験競争が激化した1970年代。対策として、旧文部省は90年代から、学校週5日制、学習内容の3割削減などを段階的に導入し、2002年に「ゆとり教育」を全面実施した。ところが、このころから「学力低下・ゆとり教育批判」が噴出し、11年の「脱ゆとり、学力強化」の新学習指導要領導入へとつながっていく。

 子どもたちに求められる「学力」と「ゆとり」。そのはざまで、国の教育政策は時計の振り子のように揺れ動く。

 「かつての詰め込み教育の現場が、学校から塾に移っただけではないか」と塾講師。本来は学校が教えるべき「知識」を塾が肩代わりし、学校はその現実を知りながら黙認している構図が浮かぶ。「生徒を見ていて、学校できちんと教えられていないな」とさえ感じるという。

 取材した十数人の中学生で、高校受験対策について「塾より学校を信頼している」と返答した生徒はいなかった。

 学校と塾の「黙認の連携」ともいえる受験の現実に、読者からはこんな手紙が届いた。

 大学入学前に1年の予備校通いを除けば、塾に通わず、国立大に進学したという福岡県久留米市の女性(47)。

 「核家族化が進み、地域のコミュニケーションが不足、子育ての孤立化→家庭内ですべき最低限のしつけまで学校側に要求→学校側は教科以外の指導に追われ余裕なく→学校では十分な教科指導ができず、多くの生徒が塾通い→経済的に困難な家庭は塾に行けず、学力の二極化が進む」。そして「なかなか負の流れが断ち切れない。社会全体で考えていくべき最重要課題だと思う」と記した。

 熊本市の教育関係者は「学校、部活動、塾以外の時間を今のままでは子どもたちは持てない。本を読む、映画を見る、自然の中で過ごす、一人で思索するなどの時間が奪われていることを案じている」。福岡市の男性(67)は「国も国民も教育について再考すべきだ、と痛感している」と意見を寄せた。

 3回の記事には盛り込めなかったが、こんな受験生もいた。

 福岡市のある学習塾で出会った中3男子(15)。親にはずっと「(地域トップの)○○高に行け」と言われ、週5日の塾通いを続けてきたが、3年生になってから、「2ランク」下げた高校が現実的だと思い知らされたという。

 将来の夢はまだ描ききれず、「できるだけレベルが高い高校に行くほうが視野が広がる。視野が広がれば、自分に合った仕事を見つけられる」。目標を下げざるを得ない現実に、いらだちや焦りがあるのだろう。「勉強しているのに…。(成績が)思うように上がらない。なんで…」とうつむいた。

 いい大学→いい会社→いい人生。こうした未来設計図が保証される時代は終わったとされるが、彼がつぶやいたように、まずは目の前の競争に勝ちたいという思いは、親も子も変わっていないのだろう。

 私が取材できたのは、受験という現実のほんの一端だったが、出会った歳たちは、私が思っていたよりもしっかりと将来を見据え、物事を考えていた。それだけに、彼が見せる「あきらめ」にも似た表情が、やけに気掛かりだった。

=2015/12/27付 西日本新聞朝刊=

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