【耕運記】福岡・NPOの挑戦 生ごみ堆肥化 循環都市に

西日本新聞

 米ニューヨーク市・マンハッタンの朝。出勤途中の女性がポリ袋の生ごみを道路脇の専用容器に投入し、そのままさっそうと地下鉄の駅に下りていく。

 「何て様になってるんだろう」。福岡市東区のNPO法人循環生活研究所(循生研)のたいら由以子(ゆいこ)理事長(49)は昨年8月渡米したとき目にした光景を思い出す。ごみ100%資源化を目指すゼロ・ウェイスト(廃棄物、浪費)宣言が相次ぐ米国の自治体視察だった。「リサイクルの取り組みもファッション化している。広報などのやり方も勉強が必要」と痛感した。

 循生研は、家庭の生ごみを堆肥化して地域循環させる取り組みを続けて20年目。ベランダなどでも手軽にできる道具「段ボールコンポスト(堆肥)」の普及に力を注ぐ。臭いもない、虫もわかない技術や仕組みを研究する。普及の担い手として育成しているアドバイザーは国内のほか、ベトナムやネパールなどに計約200人。講座への講師派遣、堆肥で育てた「地域循環野菜」の販売仲介、博多湾で大量発生するアオサ対策のほか、高校・短大での農業実習や、若者の成長を狙った農園も運営する。もちろん堆肥化の実践の場だ。

 こうした活動が評価され2014年に「地域づくり総務大臣表彰」、15年には福岡県市民教育賞を受けた。

 それでもたいら理事長は、生ごみの堆肥化が思うように広がらず、焼却され無駄になっている現状がもどかしい。「日本は堆肥化の技術は進んでいるのに、それを生かす社会の仕組みが追いついていない」と。

 § § 

 末期がんの父親が余命3カ月の宣告を受けたのは1995年。栄養士の資格を生かし食養生を思い立ち、玄米菜食を始めた。ところが無農薬の野菜が手に入らない。1日かけてようやく見つけるという日々。食べ物は人の存在を左右する。身に染みて分かった。

 「土が病んでいる」状況を変えたい。まず堆肥づくりからと考え、青年団の仲間に呼び掛けた。理解してもらうため、ごみ収集車について回る深夜ツアーにも引っ張り出した。少しずつ共感は広がり、2003年の設立につながった。

 今年の課題は、主婦が感じる生活圏、半径2キロで循環の輪を完結させるモデル事業だ。生ごみの堆肥によって土が生き返り、抗酸化力の高い野菜ができる。効果はごみの減量だけにとどまらない。住民同士のコミュニティーは深まる。良い食材は健康につながり医療費を軽減する。資源化事業は雇用も生む。生ごみは経済も含めた、いろんな価値を地域にもたらす宝だという意識を共有したい。農園の運営などで動きだしているアイランドシティ(同市東区)が、候補地の一つだ。

 人間と自然の関わりを見直す「気づき」にあふれる堆肥づくりの教育力に驚いた例もある。農業実習を指導する高校に不登校の男子生徒がいた。授業には来なくても畑には顔を見せる。次第に他の授業にも出るようになった。夏休みの課題は害虫の研究をまとめた。「仕事の厳しさ、大変さを学習できた。自分の体調管理などの大切さも分かった」。こんな言葉を残して無事に卒業してくれた。

 たいら理事長は、福岡市が循環先進都市として海外からも多くの視察を迎える様子を思い描く。夢は大きく、実践は顔の見える範囲で。「米国ができるのだから、日本に、福岡にできないはずはないですよね」

 「循環生活」に向けた挑戦は続く。

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 循生研=092(405)5217。


=2016/01/13付 西日本新聞朝刊=

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