【耕運記】高校生サミット 有明海再生 若者が発信

西日本新聞

 ホール前方に高校生15人が並んでワークショップが始まった。運営するのは大学生という。テーマは先の見えない有明海再生。こんな難題になぜ、若者が取り組もうというのか。

 第1回有明海高校生サミット。今月10日、会場の福岡県柳川市立図書館ホールには、幅広い世代の約80人が来場した。大学生6人の実行委員会と、干潟再生を目指す同市のNPO法人「SPERA森里海・時代を拓(ひら)く」が主催する。

 「きょうは独自のワークショップです。有明海再生の担い手となる若者と、これまで携わってきた大人が意思疎通するための場にしたい」。コーディネーターを務める実行委員長、堤悠一郎さん(19)が口火を切った。佐賀大農学部生物環境科学科の1年生。ちょっと軽めの乗りが危なっかしいけれど、新鮮でもある。

 高校生と柳川市、福岡県、環境省などの担当者8人が向き合う。伝習館高(柳川市)、久留米高(福岡県久留米市)、荒尾高(熊本県荒尾市)の生徒15人は昨年12月、事前研修会で柳川の掘割を視察し、長年研究を続ける専門家の講話を受けた。そこで感じた疑問を行政の担当者や会場の関係者に問い掛けようというわけだ。

 「漁獲減を防ぐ施策は」「生き物が小型化しているといわれるが、どう感じているか」などの質問に、合併浄化槽の普及事業の説明や、貝類が不漁になっている実態が報告された。堤さんも慣れない様子ながら、何とかさばいている。

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 堤さんは高校入学まで「虫も触れなかった」。それが八女高(福岡県筑後市)生物部に入り、矢部川で生き物の面白さを知った。絶滅危惧種の調査に携わり、伸び伸びと過ごす自分に気づき「自然と離れられない」と感じた。森林も身近な河原も「川でつながっている」という意識は、矢部川が流れ込む有明海にたどり着き、関心に変わった。

 高2の冬、初めて有明海に足を踏み入れた。大和干拓(柳川市)の干潟で、ひっくり返した空き缶の裏にたくさんのゴカイやユムシなどを見つけた。これでも少なくなったと聞いて驚き、豊かな時代の有明海を取り戻したいと思った。「俺がやらなかったら誰がやる」。進むべき道が見えた。

 有明海をもっと知りたいと堤さんが大学に入学した2015年は、日本全体の沿岸の環境再生にとって大きな節目とも言える。海の恵みは川を通じて運ばれる山林の滋養に支えられている、との考え方に基づく「森里海(もりさとうみ)連環学」に環境省が呼応。14年12月に打ち出した「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」を本格的に始動させたのだ。理念を次世代につなぐ人材を育てようと、事業の支援を受けてSPERAは有明海塾を開校した。塾長には堤さんの名前が上がった。

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 ワークショップの討論が白熱したのは、ごみの不法投棄をめぐる場面だった。行政側が対策を説明すると、会場から効果の有無を報告するべきだとの要望が出た。最初に質問した荒尾高2年の男子生徒は「行政施策など有明海での活動を知ることが大切と感じた」と話す。若者の率直な疑問をきっかけに論議は深まり、施策の進め方に一石を投じる形にもなった。

 「わざわざ会場に足を運んでくれた人たちは有明海に対するいろんな思いを秘めているはず。そんな意見を大切に聞いていきたい」。堤さんの抱いた思いは再生に携わる関係者全てが持つべき姿勢ではないか。

 環境省はプロジェクトの総括シンポジウムを2月20日、富山市で開く。昨年11月から続く全国48カ所のイベントを締めくくる。堤さんも行く予定。伝えたいことは「有明海はみんなのものという思いを一人一人が持つこと」。高校生が書いた「小さなサミット宣言」の一節である。「若者も真剣に考えているということを発信したい」


=2016/01/20付 西日本新聞朝刊=

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