18歳オトナですか<4>痴漢撃退「人のため」実行 “神対応”を学ぶアイドル

西日本新聞

 揺れる電車の中で、福岡市の私立高校に通うソラ君の耳に恩師の声が響いた。「人のためになるようなことをしろ」。野球部の監督がいつも口にする言葉だった。今が実行する時だ。

 視線の先に痴漢がいた。しらを切られないよう、まずはスマートフォンで動画撮影。その上でそばにいた男性に声を掛け、2人で近づき、取り押さえた。40代の男だった。大人のすることか。

 被害に遭った女子高校生はずっと泣いていた。かわいそうに。それでも警察が来るまでの間、2度お礼を言ってくれた。「いえいえって感じで。照れました」

 「人のために」が口癖の監督も40代。指導は厳しい。深夜まで素振り、朝練は5時半から。放課後は自らマイクロバスを運転して専用練習場に向かう。熱い人だ。

 「脱走しようと思うくらいきつくて。でも慣れるもんですよ、ははは」。小さいころから野球に明け暮れ、高校では寮に入った。尊敬する監督、かわいがってくれた先輩、送り出してくれた家族。逃げなかった理由はいくつもある。

 さて、選挙権について尋ねると「税金も払っていないのに」。まだぴんとこない。何より今は、野球部も引退したし、受験勉強に集中したい。目標は臨床工学技士。「病院の精密機械が発達したからできた国家資格なんですよ」。人のためになる大人になりたい。

    ×      ×

 恋愛禁止の世界にいる。地元福岡のアイドルグループで活動する高校3年のケイさん。「男友達とただ遊ぶのも、オタクさんの中では話が膨らんじゃうんで」。オタクに「さん付け」する“神対応”にプロ意識がのぞく。

 オトナですか?と尋ねると「何かを変えないとなれない」。その「何か」って何だろう。見つけるための「トレーニングのような感じ」でこの世界に飛び込んだ。

 「コミュ力(コミュニケーション力)不足」も「何か」の一つ。小さいころから気持ちを伝えるのが苦手だった。例えば病院はいつも親同伴で、代わりに症状を説明してもらっていた。

 グループの上下関係は厳しい。芸名など詳細は「社長さん」に怒られるから明かせない。言動に配慮しないと短文投稿サイトのツイッターが炎上し、解雇される。

 もまれる中で変化も実感する。話がまとまらなかった舞台の司会は、自分で驚くほど言葉がすらすら出るようになった。グッズ販売に来場する「オタクさん」との会話も弾む。「メンバーさん」とも溶け込み、ずばっと言えないことは無料通信アプリLINE(ライン)で伝える要領も身に付けた。

 ただし「若いうちにしかできない」アイドルは、2年契約が切れたら卒業しようと考えている。それまでに「何か」を克服し「やり遂げた感」を味わいたい。そのとき、どんな大人になっているだろうか。

=2016/01/05付 西日本新聞朝刊=

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