祈りの島の心 世界に 宗像・沖ノ島推薦候補 魅力も禁忌も伝え

西日本新聞

 「夢のごたあですね」。世界文化遺産の国内推薦候補に「宗像・沖ノ島と関連遺産群」が決まった28日、玄界灘で沖ノ島に最も近い大島(福岡県宗像市)では、島民たちが笑顔を見せた。なお禁忌が残り、信仰心を集める「祈りの島」。かつて役場職員として、退職後には地元のまとめ役として世界遺産登録活動に関わってきた板矢英之さん(71)は「先祖代々、大切にしてきた島を伝える努力をせないかん」と力を込める。

 28日午後4時すぎ。板矢さんは、毎日通う沖津宮遥拝所(ようはいじょ)で「推薦候補決定」の連絡を携帯電話で受け、口元をほころばせた。遥拝所は絶海の孤島・沖ノ島に渡ることのできない人々が、最寄りの大島から祈りをささげるための場所だ。

 小さいころから近所のお年寄りが沖ノ島を「お神さま」と呼び、漁師が島周辺に向かうことを「沖ノ島に上る」と話すのを聞いて育った。言葉ににじむ敬意を感じた。沖ノ島近辺での漁のあと、漁師たちは網に入った砂を洗ってとっておき、次の漁で返しに行く。

 「島から一木一草たりとも持ち出してはならない、という禁忌は、漁師たちに今も守り継がれている」
 入島制限もあり、おいそれとは上陸できない。初めて足を踏み入れたのは役場勤めだった38年前。衣服を脱ぎ、海中でみそぎを終えた時「足元からずーんとしびれがきた。何とも知れん気持ちで神に会えたと思った」。この思いを忘れられず、世界遺産登録活動の中でも「観光ありきの誘致ではいかん」と言い続けた。

 世界遺産の候補として誇らしい思いの一方で、懸念もある。沖ノ島が世界遺産暫定リストに載った2009年ごろ。「プレジャーボートが島に停泊し、ビールの空き缶を海中に捨てて帰った」という話を耳にした。観光目的の船が禁忌を破り、勝手に上陸しないか。沖ノ島周辺は豊かな漁場で、昔から泊まりがけの漁をしてきた漁師たちには「世界遺産で、漁が規制されるのでは」との心配もある。

 大島では遥拝所のほか、中津宮も構成資産に含まれる。人口約700人の島に、この夏休みは観光客が押し寄せるかもしれない。「特別なおもてなしはできなくても、話しかけて交流することはできる。沖ノ島になぜ禁忌があり、守り続けるのか、知ってもらういい機会にしたい」。いつも通り、中津宮に手を合わせながら話した。

 【宗像・沖ノ島と関連遺産群】

 沖ノ島は、福岡県宗像市の沖合約60キロにある玄界灘の孤島。周囲約4キロ。古代から東アジアと交流が行われ、航海の安全を願ったとされる4~9世紀の祭祀(さいし)跡が残る。銅鏡、金製指輪、土師(はじ)器など出土した約8万点が国宝となった。交流の歴史と出土品の多彩さから「海の正倉院」とも呼ばれる。

 山腹に宗像大社の沖津宮がある。島全体が神域のため女性は入れず、一般男性も許可なく上陸できない。島で見聞きしたことを他言せず、島のものを持ち出さないなどの禁忌もある。タブノキ原生林は国指定の天然記念物。オオミズナギドリが生息、繁殖する場としても知られる。

 関連遺産群は(1)沖ノ島(沖津宮)(2)沖津宮遥拝所(3)中津宮(4)辺津宮(以上宗像市)(5)新原・奴山(しんばる・ぬやま)古墳群(同県福津市)の五つで構成する。宗像大社は沖津宮、中津宮、辺津宮の総称で、3姉妹の女神をそれぞれ祭る。

    ◇      ◇

 ●ツアー商品はや探る 観光関係者

 「宗像・沖ノ島と関連遺産群」が世界文化遺産の推薦候補に選ばれた28日、九州の観光関係者などからも喜びの声が上がった。

 九州観光推進機構(福岡市)の高橋誠事業本部長は「世界遺産候補のブランド力は大きい。全国の旅行会社にツアー商品づくりを呼び掛けたい」と喜んだ。今年世界遺産となった「明治日本の産業革命遺産」、16年登録を目指す「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」と合わせ「世界遺産を巡るぜいたくなコースが実現するかも」と声を弾ませる。

 阪急交通社(大阪市)は「世界遺産登録への手続きが進む中でさらに注目が集まるだろう。船の確保という課題はあるが、ツアーなどを検討したい」(広報部)と期待を寄せる。

 沖津宮遥拝所などがある大島(福岡県宗像市)は既にトレッキングコース「九州オルレ」としても人気。大島でタクシーを運行する「みなとタクシー」(同市)は今後、マイクロバスの導入も検討する。古野貴史常務は「運転手の研修を進め、訪れる人を歓迎したい」と語った。

=2015/07/29付 西日本新聞朝刊=

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