入院患者に化粧療法 福岡の病院 生活の質向上、動作維持も

西日本新聞

 毎日のスキンケアやメークで認知症を予防し、元気で長生きしよう-。高齢者のリハビリの一環として、化粧を取り入れる動きが広がっている。気持ちが明るくなるだけでなく、筋力が戻り、口腔(こうくう)機能が改善するなど、日常生活動作(ADL)の維持や向上にも効果的という。

 1月中旬、福岡県大牟田市の菅原病院。看護師ら6人が資生堂のビューティーセラピスト吉村由紀子さん(52)から肌の手入れの指導法を学んでいた。

 「マッサージは筋肉に沿って。滑りやすくするため乳液を付けましょう」「耳の下にある唾液腺を刺激することが、口腔ケアにつながります」。看護師らは吉村さんのやり方をまねながら、熱心にメモを取った。

 菅原病院では1月から月1回、資生堂の社員が患者向けに行う「いきいき美容教室」をスタートさせた。単に化粧するだけなく、血行をよくする準備運動からスキンケア、実際のメークまで行う同社独自の「化粧療法プログラム」の実践だ。長期化する入院期間の生活の質(QOL)の向上を目的としている。

 美容教室は月1回のため、他の日々は2月から、毎朝のラジオ体操の後に、看護師らが患者にスキンケアの指導を行う予定だ。この日はその準備のため、事前研修会が開かれていた。

 女性看護師(45)は、美容教室で見た光景が忘れられない。「内にこもりがちな80代の女性が久しぶりに化粧をして、見たことのない笑顔を見せてくれた」という。「毎日のスキンケアが生活の張りにつながっていけばいい」と期待を寄せた。

 2009年度から社会福祉士、介護福祉士養成の教育内容に化粧が追加されるなど、介護現場では「化粧」や「身だしなみ」から得られる心身への効果が期待されている。

 資生堂は、11年から高齢者向けの「化粧療法」に本格的に取り組んできた。これまでは介護施設や認知症専門の病院が中心で、一般病院で定期的に行う取り組みは珍しく、九州では菅原病院が初めてとなる。

 研究を続けている医学博士、同社新規事業開発室の池山和幸さん(40)は「介護を必要とせず日常生活を送れる期間、『健康寿命』を伸ばすのに効果的だと分かってきた」と説明する。

 化粧品を使うときは、容器のふたを開け閉めし、腕を上げ、上下左右に動かして顔に塗る。これらの動作には、食事のときの2~3倍の筋力と関節可動域を使うという。月に1~2回のメークと乳液のスキンケアを毎日続けた結果、3カ月後に認知機能が向上した、握力が上がったというデータも得られた。

 実際に、高齢者施設では食事が1人でできるようになった、トイレの介助が必要なくなったなど、入所者の自立度が上がり、介護者の負担軽減につながった例も少なくないという。

 高齢になると、筋肉の動きが悪くなり、食べ物をのみ込んだり、話したりする動作がしづらくなる。同社が歯科衛生士と共同で研究したところ、化粧療法によって、唾液の分泌やのみ込む機能、言葉を話す機能が向上したという結果が出た。池山さんは「化粧によって顔や首のマッサージが行われ、会話が増えたたため」と分析する。

 多くの人が化粧をやめてしまうきっかけになるのが、病気だ。入院中の化粧をしない習慣が退院後も続き、外出の機会が減り、人とのコミュニケーションも少なくなる。池山さんは「病院でも身だしなみを整える習慣を途切れさせないことで、地域での日常生活に戻りやすくなるはず」と期待する。

 化粧というと女性のものと思われがちだが、(1)清潔な温かいタオルで顔を拭く(2)乳液やクリームを顔と首に付ける-という習慣なら男性にも取り入れやすい。耳の下やあごの下の唾液腺を意識し、優しくマッサージしながら行うのが効果的という。


=2016/01/30付 西日本新聞朝刊=

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