いま、学校で(1) 生徒の食「配給」が命綱

 高校3年の大樹(18)はカップラーメンをリュックサックにいっぱい詰め込んでもらうと、頭を下げた。
 
 「先生、ありがとうございます」
 
 福岡県のある公立高校。「生徒指導室」に置かれた段ボール箱にはパック入りのご飯やカップラーメン、レトルトのカレー、缶詰が入れられている。家で十分な食事が取れない生徒が持ち帰る。他の生徒には知らせていない。

 指導室に米やカップ麺

 大樹は生活保護を受ける父親と2人で暮らし、奨学金をもらい高校に通う。生徒支援を担当する教諭の田中幸四郎(31)が大樹の異変に気付いたのは2年生の時。修学旅行費の積み立てなど、月に約1万円の校納金がまったく入金されなくなった。

 家庭訪問しても、父親は居留守。何度も通うと「うるさい! せからしい!」と怒鳴られた。父親は息子に食事を全く与えず、大樹の奨学金も流用していた。

 大樹は週に数回、夕方飲食店でアルバイトをし、店のまかないで食いつなぐ。生徒指導室の食料は、大樹の「生命線」だ。

 間もなく卒業。本当は専門学校に進学したかった。学力は申し分なかった。だが、田中はこう伝えた。

 「1年間で100万円かかる。奨学金をもらっても、お父さんが流用する。就職したほうがいい」。大樹は泣く泣く進学を諦めた。

 田中が生徒指導室で食料提供を始めたのは約3年前。生徒の相談に乗っているうちに、経済的な理由や養育放棄で食に困窮するケースが少なくないことに気付いた。がりがりに痩せ、「最後に何を食べたか覚えていない」と話す生徒もいた。

 民間の支援団体代表にそうした現状を話すと、「私たちが食品を提供しましょう」と申し出てくれた。これまで継続的に受け取った生徒は約10人。田中の個人的努力と民間団体の取り組みが、子どもたちの食をかろうじてつなぐ。

 「学校は子どもを救う最前線。子どもたちが抱える問題は、目を凝らさなければ見過ごしてしまう」

 家庭や行政の福祉部局を日々、走り回る田中は自らにこう言い聞かせる。

   ◇   ◇

 小学2年の葵(8)は、母子家庭で中学1年の兄と3人暮らし。母親は精神疾患を抱え、育児もままならない。自宅アパートは脱ぎ捨てた服やごみ袋であふれ、足の踏み場もない。

 母親は、体調がいい日は食事を作るが、それ以外はコンビニ弁当か菓子パン。一日の食事が給食だけの日も珍しくない。教師たちがおにぎりやパンを買い、職員室で隠れて食べさせるのが日課だ。

 スクールソーシャルワーカーの山田由希子(50)によると、葵がある日、口元に前日の給食で飲んだ牛乳の跡を付けて登校した。顔を拭きながら「ちゃんと顔を洗っている」と聞くと、葵は「顔とか洗ったことないよ」。「歯磨きは?」と聞くと、「保育園のときにしたことがある」。

 様子を見かねた山田が昨年夏、母親に「夏休みの間だけ、児童相談所の一時保護施設に預けませんか」と提案すると、母親は二つ返事で応じた。

 寂しい思いをしているだろうと山田が施設へ面会に行くと、葵は「ご飯が3回あって、おやつも出るとよ」「お部屋がきれいで、お布団も1人ずつにあるんよ」と満面の笑みで話した。

 「食事を満足に取れない子には、児相の保護施設ですら天国なんです」と山田は言う。

 葵にとって、1カ月間の施設生活は楽しい思い出。 「またあそこに行きたいんだけど、どうしたら行けると?」。葵が山田に尋ねる。「もう行かん方がいいよ」と諭すと、葵は不満そうにつぶやく。

 「なんで? また行きたいなぁ」 (登場人物はいずれも仮名)

   ◇   ◇

 深刻化する子どもの貧困。その現実を教育現場から報告する。

=2016/02/16付 西日本新聞朝刊=

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 ◆いま、学校で(3) 貧困が招く「10歳の壁」

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 ◆いま、学校で(5) 担任が教室で子守代行

 ◆いま、学校で 読者の声 「何もしないではいられない」

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