【第6部 移住の杜の20年】<5完>共存 街おこしの熱 外へ広げ

西日本新聞

 「市は、高齢者移住対策をどう考えているのか」

 1月18日、福岡県朝倉市役所の3階。「美奈宜(みなぎ)の杜(もり)」の住民団体代表鶴田一(77)ら5人が、長机越しに副市長の片山潔(50)ら6人と向き合った。街開きから20年。初めて実現した市との「公式会談」だった。

 お年寄りや学童の足、病院や介護施設の確保…。街の将来に対する危機感が高まる中、市は昨秋、美奈宜をモデルとした移住政策に取り組むと「宣言」した。地方に高齢者移住を促す国の方針に手を挙げたのだ。

 受け入れ人数、予算、期限。矢継ぎ早に質問する5人に、片山らは「今後、具体策を考えたい」と答えるのが精いっぱいだった。

 美奈宜は民間主導で20年も前に誕生した「移住の先進地」。にもかかわらず、市が人口減対策のヒントとして市全体の活性化に生かす視点は「ほとんどなかった」(関係者)。県内で4番目に広い朝倉市内は各地で文化、風習が異なる。

 「移住者受け入れは簡単ではない」と総務部長の堀内善文(59)は認めつつ「そのノウハウを美奈宜の協力を得ながら考えたい」。

 移住者に背中を押され、ようやく目を覚ました。

 鶴田たちの懸念は、足元にも向く。

 高齢者主体の街に、実は消防団がない。いざというときは近くの三奈木地区の市消防団分団が駆け付ける。自治会は鶴田が会長時代の2007年、分団への感謝を込めて「協力金」を各戸から千円ずつ集め、渡し始めた。全320世帯の9割が応じる。しかし-。

 昨年10月、分団に初めて美奈宜で消防訓練をしてもらった。街中心部の調整池で2台の消防ポンプ車が数十メートル先の広場に放水、空中に美しい弧を描いた。団員の平均年齢は20代後半。街が「外」から見守ってもらっていることを、住民に実演で伝えたかった。

 全戸にチラシで周知した。見学に来たのは約60人だった。「動くのはいつも同じ顔。街づくりへの“温度差”は、いかんともしがたい」と鶴田。

 久留米大教授の浜崎裕子(62)は昨年、鶴田らから依頼を受け、街づくりにアドバイスを送る。「地縁がないから、住む街に愛着が薄い人は確かにいる。半面、選んで『この地』にやってきた自負心から、街づくりにのめり込む人も少なくない」とみる。

 浜崎の目にも「高齢者だけでは街は成り立たない」と映る。「外での知恵や経験を持つ人の“熱”を、他地域も含めた多世代とどう共有し、広げていくか」。今秋、住民たちと初めて開く予定のシンポジウムで、そんな話をするつもりだ。

 美奈宜の前田幸保(79)は2年前から、車で15分離れた高木地区で、サツマイモの収穫を手伝う。街で月1回開く朝市を訪れた農家の林利則(69)と知り合い、約15人の住民とともに「弟子入り」した。

 梅雨時にはホタルが乱舞する高木は過疎に苦しむ。そんな隣人と自ら触れ合い、「よそ者」からの脱皮を狙う。「折らんように、深く掘らないかん」。林の教えに大きくうなずき、前田は褐色の大地にスコップを入れ、ぐいっと力を込めた。 (敬称略)

 =おわり

=2016/02/11付 西日本新聞朝刊=

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