いま、学校で(4) いつか高校に行きたい

西日本新聞

 16歳の朱美は昨年3月に九州北部の公立中学校を卒業し、今はアルバイトをしながらお金をためている。
 
 2年前の春。スクールソーシャルワーカーの佐藤真由子(38)は、いつも黒ずんだブラウスを着ている3年生の朱美の姿が気になった。声を掛け続けると、1カ月ほどたったころ朱美が打ち明けた。
 
 「うちには、お金ないけんさ」

 派遣労働者の父親と2人暮らし。借金取りに気付かれないよう、公営団地の部屋の電気をつけず息を潜める夜があること。

 食事は、給料が出たときに父親が買い込んだカップ麺と菓子パンばかりで、制服のブラウスも1着しか持っていないこと。

 朱美が徐々に心を開いてきた1学期のある日、佐藤が家庭訪問すると、「暇だから勉強しとった」。手には使い古した参考書。朱美の成績は学年で中の上。生活は苦しくても勉強は欠かさず、公立の普通高校に合格する学力があった。

 担任は奨学金を借りて進学するように説得した。だが、父親は「奨学金も借金やろ。高校なんか行かんでいい」と拒み続けた。

 2学期に入り、3年生は進学の話題でもちきりになる。朱美は「学校は嫌いだから、高校には行かん」と言い張り、やがてほとんど登校しなくなった。結局、進学せずに卒業した。

 でも、朱美は進学をあきらめていなかった。卒業後しばらくして、佐藤の携帯に連絡してきた。

 「すぐに進学しなくても、高校に行けると?」。働きながら通える定時制高校があると伝えると、「お金をためていつか行くよ」。

   ◇   ◇

 朱美が目指す定時制高校。そのうちの一校に通う潤(17)は朝5時半に家を出て建設現場で働き、学校へ着くのは午後5時半ごろ。作業着姿で9時まで授業を受ける。

 「早く自分の力で生活できるようになりたい」。潤の表情は明るい。

 母親と2人暮らし。毎月約13万円の生活保護費が暮らしを支える。潤は毎月10万円の給料から7万円を蓄え、1人暮らしに備える。

 潤の頑張りには理由がある。従来、生活保護世帯の高校生が収入を得た場合、保護費が減らされていた。だが、国は、2014年度から進学や自立のための預貯金であれば、保護費は減額されない、と実施要領を改正した。

 そのことを潤は入学した2年前の春、担任の橋田進一(49)から教えられた。

 ただし、卒業後に就職しても、1人暮らしをしない限り「世帯収入」とみなされ、母親の保護費が減額される。蓄えは母親のためでもあり、「建設会社を起こして家を建てたい」という自分の夢のためでもある。

 この定時制高校で、生徒の3割は生活保護世帯。ただ、潤のように預貯金ができている生徒はまだ3人にとどまる。

 橋田は言う。「預貯金ができるようになり、貧困の連鎖を断ち切るチャンスが広がった。生徒たちを後押ししていきたい」

(登場人物はいずれも仮名)

=2016/02/19付 西日本新聞朝刊=

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