【食の力】郷土料理 知恵の結晶 対馬の伝承状況 九大准教授調査 「“絶滅”防ぐきっかけに」

西日本新聞

 あなたにとっての郷土料理とは-。思い浮かべる料理は人によって違うだろう。その土地だからこそ生まれた料理が各地にある。そこに光を当てようと、九州大の比良松道一准教授(農学)の研究グループが調査に乗り出した。

 ぐらぐらとお湯が沸いた鍋の上に、巨大なおろし金のような調理器具が載る。その穴からひょろひょろと麺が落ちていく。生地をこすりつけるように押し出すのは長崎県立上対馬高2年の女生徒2人。「長い麺にするにはこつが要ります。油断すると手の皮がむけて、なかなか痛いです」

 1月中旬、福岡市西区の九州大伊都キャンパス多目的室。比良松准教授のゼミ生を前に、2人は対馬の郷土料理「ろくべえ」を調理した。麺は、サツマイモを原料にした「せん」から作る。でんぷんを発酵熟成させ、完成まで4カ月かかる保存食だ。総合学習の授業で学んだ対馬の食文化。この日は、学習の進め方などを助言してくれた比良松准教授のゼミでの発表だった。

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 比良松准教授が郷土料理の調査に着手したのは2015年。貴重な地域文化である郷土料理の中には、姿を消そうとしている物もある。「絶滅の危機」を脱して見直すきっかけにならないか。そんな思いだった。

 まずは対馬で、ろくべえなど郷土料理13種の伝承状況を調べた。島民の20代18人、70代9人を対象に「知らない」「知っている」「食べたことがある」「作り方を知っている」「作れる」の1~5点の5段階で判断してもらい、各料理の「伝承力」を評価した。

 70代の平均はすべて3点を超え、5点の料理も二つ。20代は3点未満が大半で、焼き芋のようにたき火で調理する「焼き大根」など1点の「絶滅危惧種」も二つあった。一方、すき焼きに似た「いりやき」は作っている家庭も多く3・4点。ろくべえは3・1点だった。

 調査は年齢層、人数を増やして継続し、同じ手法による九州全域の調査も視野に入れる。各地の郷土料理の伝承力をインターネットを通してアンケートする仕組みを構築。絶滅の恐れのある野生生物に関するデータ集になぞらえた「郷土料理レッドデータ」をまとめ、将来的には全国に広げたい考えだ。

 ゼミでは伝承の難しさについても討論した。利便性を重視する社会や目新しい物を求める価値観が伝承を阻み、過疎化や女性の社会進出なども背景にあるとの見方が出た。一方、観光の素材として活用することや学校での指導が伝承につながるとの意見もあった。

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 面積の80%が山林に覆われる対馬。狭い平地で江戸時代から盛んに栽培されたサツマイモは何度も食糧難を救った。「せんだんごはこれを大切に無駄なく食べられるように保存する知恵から生まれました。『せん』は千もの手間が掛かることから付いたともいわれています」。高校生2人の発表に学生たちはうなずいた。

 欠かせない発酵には青カビも利用され、その毒素を水にさらして除く独特の技術もみられるという。「水にさらして、干して、寒風にさらすという手順は朝鮮半島から伝わったと推測される。南からの材料と北からの技術によってできた料理」と比良松准教授。「異文化融合を簡単にできるのが料理のすごさ。素材と技術が出合い、新たな物が生まれる世界がそこにある」と総括した。郷土料理もそんな奇跡の結晶といえないだろうか。

 「この食感は独特」「タピオカみたい」。試食会は、対馬と料理の歴史もろとも魅力を味わう学生たちの歓声であふれた。


=2016/02/24付 西日本新聞朝刊=

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