もう一つの挑戦(4)新設校 辺境の全寮制公立一貫校

 ブラックホールのなぞ解明に向け、天文衛星「ひとみ」が搭載されたH2Aロケットが鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられた17日。私は、九州南端の大隅半島にある学校で、発射の瞬間を見ていた。小さな機体が白煙を吐き、ぐんぐん上昇していく。「すげ~、見えたぞ」。カメラを構えた男子生徒10人の歓声が響いた。

 全国初となる全寮制の公立中高一貫男子校「県立楠隼(なんしゅん)中学・高校」は昨春、同県肝付(きもつき)町に開校した。目指すは新時代のリーダー、トップの育成。2020年度を目標に変わる大学入試をにらみ、独自のカリキュラムを取り入れている。

 肝付町は人口約1万6千人。「こんな田舎に生徒が集まるのか」「(寮の整備費などに公費)48億円もつぎ込んで」…。関係者の心配をよそに、中学生60人(現在58人)、高校生37人が入学。九州ばかりではなく、長野、東京、沖縄など全国から生徒は集まり、中学入試の倍率は約4倍。今春入試も約3倍に達した。有名私立に合格しながら入学した生徒もいるという。

 どんな学校なのか-。

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 朝7時25分からの補習は、古文の素読(音読)から始まった。郷土の先哲・西郷隆盛が記した「西郷南洲翁遺訓」。敬天愛人(天を敬い、人を愛する)の精神などを学ぶ。

 興味深かった授業は「ことば探求」。教科書を使った「国語」とは別に設けられた授業で、新聞記事を教材にしていた。記事の要約や自分の意見、他人の意見への評価・反論が求められ、大学生の論文のように先生が個別指導していく。

 どこでもやってるNIE(新聞を活用した学習)じゃないか、と思うかもしれないが、提出するリポートの分量が違った。400字詰め原稿用紙10枚。通常は2、3枚だ。

 単なる知識の暗記ではなく、情報をどう読み解き(リテラシー)、実生活にどう役立てるか(コンピテンス)。「21世紀型学力」の獲得を目指すもので、記述・論述式が増える新テストへの対応でもある。

 新制度で大学受験することになる中学1年の柳哉寿(かなと)さん(13)=肝付町出身=は「1年間、しっかり受験勉強に充てることができるメリットに加え、新テストの対策もある」。将来は弁護士を目指している。

 授業科目「宇宙学」を学ぶために入学する生徒も少なくない。町内には宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内之浦宇宙空間観測所があり、地の利を生かし、JAXAから講師を招く。

 高校1年の吉田健人さん(16)=北九州市出身=は私立の中高一貫校に通っていたが、高校受験で入学した。「何の実績もない高校に行くのは不安だったが、学びたいものがあった」。模擬人工衛星を作る宇宙部の部長を務め、夢はロケット開発のエンジニアという。

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 午後8時。真新しい木の香が残る2階建ての寮。風呂から上がり、ジャージー姿の生徒たちが一室に集まってきた。自習時間だ。中学生は午後10時、高校生は同11時まで。教諭も交代で泊まり込み、付きっきりで指導に当たる。大手予備校のサテライト講座まである。

 全国模試で同校は先日、公立中高一貫校では九州トップに立ったという。山崎巧校長は「10年後をみてほしい」と話した。

 夜の寮には、次々とこんなアナウンスが響いた。「○○君、○番(電話)を取ってください」。遠く離れて暮らす親からの電話だった。スマートフォンは原則禁止。生徒は気恥ずかしいのか、受話器を手にもじもじ。

 過疎地ならではの農家民泊などの学びもあるのだが、少数精鋭の徹底した「受験合宿」のような日々を、生徒たちは本当のところどう思っているのか…。その心の奥までは分からなかった。

=2016/02/28付 西日本新聞朝刊=

 シリーズ「教育はいま」

 ・もう一つの挑戦(1)フリースクール 不登校から、ゆっくり半歩

 ・もう一つの挑戦(2)離島 小さな町の受験生は不利か

 ・もう一つの挑戦(3)定時制 どっこい、回り道人生

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