在宅介護「予行練習」の場に 熊本再春荘病院 重い障害児や親を支援 

西日本新聞

 「体調はいかが。元気かな」。5月のある午後。熊本再春荘病院(熊本県合志市)1階の小児科病棟。島津智之医師(37)が、ベッドで笑顔を見せる2歳の女児に声を掛けた。女児は脳に障害があり、寝たきり。ただ、入院しているのは"病気だから"ではない。

 同院は、気管切開などの手術を受け、他院の新生児集中治療室(NICU)から転院してきた子どもを受け入れる。親が、痰(たん)の吸引など慣れない手技の練習をしたり、試験的に一緒に病棟に泊まったり、自宅に帰る前に「予行練習」する場だ。NICUと在宅生活をつなぐ「中間移行施設」と呼ばれ、日本小児科学会によると九州ではここだけ。全国ではほかに大阪府、長野県にしかないという。

 中間移行を始めたのは2006年。地元の小児救急病院から「子どもがスムーズに在宅で暮らせる環境づくりができないか」と要望があったのがきっかけだった。NICUで子どもの命は助けられても、ベッド数が不足しており、すぐ退院を余儀なくされる。親たちのほとんどは大きな不安を抱えたまま、自宅での介護生活に突入する。

 「重い病気や障害のある子も生まれたからには家に帰るのが当然。でも、そんな当たり前の暮らしをサポートする態勢がととのっていなかった」と島津医師。自ら病院側にかけ合い、通常の入院用ベッドを減らし、中間移行に乗り出した。

 「滞在期間」は原則、子どもがNICU退院後の3~4カ月間。在宅に移った後、親の負担を軽減する「医療型短期入所」用のベッドも合わせ計8床を確保。これまで30人を超える患者と親の支えとなってきた。

 病棟の看護師長、木村由美さん(49)は「最初は不安そうな親が時間をかけて育てることを受け入れ、表情が変わる。本物の親になる姿が印象的」と言う。

 「この病院のサポートがあったから、この子も私も生きていける」。ぐっすり眠る別の女児の顔を眺め、その母親(32)がしみじみ語る。普段は痰の吸引などで24時間つきっきり。ただ、2人のきょうだい児との時間をつくるため、たまに短期入所を利用すると、「張り詰めた心と体がリラックスできる」。

 生後すぐ、「3~4カ月で亡くなる重い疾患」と診断された女児。元気に3歳の誕生日を迎えた。

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 重い病気や障害のある子どもを抱える在宅の家族が増える一方、その暮らしをサポートするこうした医療機関は"少数派"だ。その背景や課題は‐。

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 ×【ワードBOX】医療型短期入所

 障害者総合支援法に基づき、在宅の障害児・者を病院や診療所などが「一時預かり」する福祉サービスの一つ。障害者支援施設などが、入浴や食事など基本的な介護サービスを提供する「福祉型」とは異なり、痰(たん)の吸引や管を使った栄養注入(経管栄養)などの医療的ケアにも対応するのが特徴。いわば医療と福祉の「すき間」を埋める仕組みで、福祉型よりも報酬が高い。

 医療的ケアは本来、医師や看護師など医療職に許される医療行為と位置付けられる。重い障害児・者と自宅で暮らす親は24時間態勢で介護に携わっており、近年、こうした親たちが休息するためのサービス拡充が課題となっている。=2014/06/05付 西日本新聞朝刊=

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