減断薬を機に寝たきりに

西日本新聞

 A子さん(40)は、福岡市の自宅マンションで寝たきりの生活を送っている。脚などの筋肉がやせ細ってしまい、起き上がるどころか、寝返りを打つことさえできない。自力ではトイレも行けず、風呂にも入れず、食事も取れない。言葉を話すこともままならない。さらに両腕がむくんだり、右足かかとに褥瘡(じょくそう)ができたりもしている。

 歩くことはもちろん、料理や、車の運転もできていたA子さんが、寝たきりになったのは7月初めごろ。原因は事故や病気ではなく、20代前半から飲み続けていた向精神薬のためとみられる。副作用と考えられる肥満などに悩まされたため、2月から減薬に取り組み、7月中旬から断薬に踏み切った。ところが禁断症状のためか体が動かなくなってしまったのだった。

 母親(69)と2人暮らし。母親は食事の介助やおむつ交換などA子さんの世話に懸命だが、自身にも持病があり、世話には限界がある。A子さんのために医療にサポートを求め、医師による月2回の訪問診療に加え、訪問看護師に週3回来てもらい、A子さんの体をホットタオルで拭いてもらったり、ベッドに寝たままの状態で洗髪してもらったりしている。それでも、A子さんは長期間風呂に入っていないためか、背中に湿疹が広がってしまった。

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 10月24日、訪問入浴介護業者「アサヒサンクリーン在宅介護センター福岡南」のスタッフ3人が、A子さんのマンションにやってきた。浴槽やホースなどを居室に運び込んで、A子さんのベッドそばに、お湯が入った「お風呂」を瞬く間に設置した。

 スタッフたちはA子さんをベッドから抱えて運んで入浴させ、湿疹が広がる背中も含めて全身をタオルや素手で入念に洗った。A子さんにとっては約4カ月ぶりの入浴。母親は「気持ちよさそうな顔をしている。訪問入浴を依頼してよかった」と喜んだ。

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 ただ、この訪問入浴の費用は1回約1万5千円。A子さんの家は母親の年金が唯一の収入だけに、しばしば利用するのは経済的に困難だ。

 実は、訪問入浴は福岡市の障害者向け在宅福祉サービスのメニューにある。費用の大半は公費で賄うため利用者の負担は原則として1回1250円で済む。しかも月5回まで使うことができる。だが身体障害者手帳の所持が利用の前提条件のため、精神障害者保健福祉手帳しか持たないA子さんは利用できない。これから身体障害者手帳を求めても、寝たきりについては回復できると判断されて交付されない可能性が高いとみられる。

 訪問入浴については、神奈川県小田原市など、精神障害者の利用も認めている自治体はあるが、福岡市は「利用対象として、四肢まひなど重度の身体障害者を想定したサービスで、精神障害者は想定していない」と説明。ホームヘルパー訪問などは精神障害者も利用対象になっているという。しかしA子さんが自宅の風呂場でヘルパーに入浴介助してもらうには危険が大きい。A子さんをヘルパーが抱えて、ベッドから風呂場まで運ぶには途中に段差があったり、風呂場入り口が狭かったりするからだ。

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 A子さんは今後、どうなるのか。医療、福祉から適切なサービスを受け、一日でも早く回復することを願うばかりだ。=2014/10/31付 西日本新聞朝刊=

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