レセプト 病名黒塗りの理由

西日本新聞

 自分が何の病気と診断され、どんな診療を受けたのかを確認したくてもできない-。そんなことがあっていいのかとつくづく首をひねってしまう事案がある。

 福岡市運営の国民健康保険(国保)に加入する40代男性が、市内のAクリニックに2013年3月に3回通院した際の診療報酬明細書(レセプト)を市に開示するよう請求したが、市が拒否した事案だ。市は拒否理由を「Aクリニックに開示について確認すると、主治医の判断として『男性の今後の治療に支障を及ぼす恐れがある』との意見だったから」と説明。主治医がそう判断した「根拠」までは尋ねていないとした。

 男性はこれを不服とし、市長相手に異議を申し立てた。市長はこの問題について市個人情報保護条例に基づき、大学教授など外部の有識者でつくる市個人情報保護審議会(不服申し立て部会=5人)に諮問した。

 ここまでの経緯はこのコラムでも取り上げた(13年9月27日付など)。今回、新たな動きがあった。同部会が14年5~10月に審議を6回重ね、今年1月14日付で市長に「一部開示」するよう答申。市長は答申通りに2月5日付で「一部開示」したのだ。だが男性が受け取ったレセプトは傷病名をはじめ診療内容の大半が黒塗りされていた。

 一体、どういうことか。答申書(写し)によると、非開示にしたのは傷病名と、診療内容のうちの「傷病名の推測が可能な情報」。審議会は傷病名について「診療上の方針や家族などの意向により、本人に告知されていないケースも想定され、そのような場合、レセプトなどを開示することにより、本人への診療上の支障が生じ、本人の生命、身体、健康、生活又(また)は財産を害する恐れも否定できない」と指摘。傷病名をはじめ今回、黒塗りした部分について「開示すると、具体的に本人への診療上の支障が生じ、その生命や財産を害する恐れが生じ得ると考えられる」などとした。つまり本人が自分の病名を知るのはまずいと結論づけたのだ。だが答申書にはそう結論付けた「理由」について具体的言及がなく、男性は「説得力がない」と憤る。

 今回、審議会が最もやるべきだったのは、Aクリニックの主治医が「開示すると男性の今後の治療に支障を及ぼす恐れがある」と判断した「根拠」が妥当か否かを吟味することだろう。しかし答申書には、Aクリニックが市の再度照会に「全非開示とすることが精神医学的にも精神科の特殊性に照らしても、合理的かつ慎重な判断である」と答えたことが記されている程度。「根拠」の具体的記述はなく、男性は依然としてそれを知ることができず、審議会が「根拠」を把握しているのかどうかさえも読み取ることはできない。

 NPO法人「患者の権利オンブズマン」(同市)の久保井摂弁護士も「主治医が非開示と判断したことに合理的な根拠があったのか否かを評価することが、審議会には求められているのに、それに関する記述が答申書にはない。これでは申立人は納得できない」と問題視する。

 Aクリニックで男性は「不安障害」と診断され、向精神薬を処方されたが治療内容に疑問を感じ、13年6月末で通院を取りやめ。男性は「Aクリニックでの治療は終わっており今後の治療に支障を及ぼすことはない」と訴えるが、この点について審議会は答申書で「今後他の医療機関での治療の必要性が生じる可能性は否定できない」とした。

 多くを黒塗りにした「理由」は何か。審議会長の村上裕章・九州大大学院法学研究院教授に取材を求めたが「市の情報公開室で対応することになっている」と断られた。同室は「答申書がすべて」と言うのみだ。

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 男性は、開示を請求するのはAクリニックが国保に診療報酬を過剰に不正請求した疑いがあるからだとも話していたが今回、手がかりはつかめなかった。一方で今回の一部開示で傷病名が10あることは判明。「たくさんで驚いた」という。

 =2015/02/20付 西日本新聞朝刊=

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