「在宅死」選べるには

西日本新聞

 緩和ケア病棟で働く看護師が「患者のAさんは亡くなる前、たばこを吸いたがっていた。でも、それをかなえてあげられなかった」と切なそうに話していたのを聞いたことがある。

 その緩和ケア病棟は建物全体が禁煙。患者が喫煙するには病棟の外に出る必要があった。しかし、末期がんだったAさんは自力で歩いたり、車いすで移動したりすることができず、たばこが吸える場所まで1人で行くことはできなかった。

 看護師は仕事中は忙しくてAさんを外に連れ出すことができないため、自分の休日にボランティアで、応じてあげようと考えた。ところが数日後、その機会が訪れる前に、Aさんは息を引き取ったのだった。

 ■

 ■

 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団(大阪市)が2011年に実施した調査(約千人が回答)によると、がんで余命が限られている場合、自宅で過ごしたいと思う人は8割強。ところが、自宅で過ごすことが可能と考えるのは全体の約18%にとどまった。

 実際、厚生労働省によると全死亡者のうち、自宅で亡くなったのは12年で12・8%だ。一方、病院で死亡したのは76・3%。多くの人が自宅で最期を迎えたいが、その意に反して、病院で生を終える現実があることがうかがえる。

 なぜ自宅でなく病院なのか。財団は「自宅で最期を過ごすための条件」についても調査対象者に質問、三つまで挙げてもらっている。回答は(1)介護してくれる家族がいること(63・4%)(2)家族に負担があまりかからないこと(50%)(3)急変時の医療体制があること(42・2%)(4)往診してくれる医師がいること(41・2%)-。つまりは家族や在宅医療の支えに不安などがあるため病院を選ぶのではないか。

 Aさんは在宅だったら亡くなる前、たばこを楽しめたに違いない。私たちは「在宅死」を当たり前に選べるようになるよう知恵を絞る必要がある。

 =2015/03/06付 西日本新聞朝刊=

PR

医療・健康 アクセスランキング

PR

注目のテーマ