若手研究者 カネミ油症本 福工大の宇田助教 救済遅れの理由迫る

西日本新聞

 1968年、北部九州を中心に発生したカネミ油症事件が、水俣病などと同様に多くの被害者を出した公害でありながら、救済が遅れているのはなぜか-。若手研究者がそんな疑問の解明に挑んだ。福岡工業大助教の宇田和子さん(31)=環境社会学=が被害者の聞き取り調査をもとに、複雑な被害構造についての研究成果を本にまとめた。「被害者救済に関する課題を体系的に網羅した初めての著書」と専門家からも評価の声が上がっている。

 カネミ倉庫(北九州市)製の米ぬか油を使った料理を食べて健康被害が出た同事件。宇田さんは大学時代、油症事件が社会問題となりながら研究や論文が少ないと気付き、大学院で研究テーマに選んだ。

 2006~12年、福岡や長崎など被害者約40人に声を聞いた。体調不良、経済苦、周囲の無理解。健康被害は次世代にもおよび「(影響を恐れて)子どもは今も出産していない」と訴える親の声は衝撃だった。

 深刻な被害があるのに世間に長年訴えられなかった事実も知った。被害者がカネミ倉庫や国などを相手に損害賠償を求めた裁判が終結した1987年以降。一部訴訟で国の責任が認められたが最高裁で覆り、仮払金の返却問題が浮上した。特例法で返却免除が決まる07年までの20年間、「仮払金問題に追われた被害者は沈黙を強いられ、救済がさらに遅れた」と指摘する。

 国の支援は、政府米の保管事業を経営力の弱いカネミ倉庫に任せる間接的なものにとどまった。宇田さんは「倒産しない程度の支援で国への責任追及を免れる一方、被害者への補償は抑えられてきた」と批判する。カネミ倉庫の補償は医療費補助に限られ、裁判で認められた損害賠償の支払いは完全履行できていない。

 著書ではそうした分析を盛り込みつつ、1万3千人超が被害者認定された森永ヒ素ミルク中毒事件の救済制度とも比較。原因企業の規模の違いなどで生じた救済の格差も明らかにした。

 原因企業の経営力が弱く補償が不十分な食品公害は今後も起こりうる。その場合に備え、食品関連企業と国による「食品公害基金」の創設も提言した。

 油症被害者救済法が12年成立し、一定の改善につながったが油症2世の救済など多くの課題が残されたままだ。宇田さんは「今後も問題提起を続けたい」と話している。著書は「食品公害と被害者救済-カネミ油症事件の被害と政策過程」。出版元は東信堂。408ページ、4600円(税別)。=2015/04/20付 西日本新聞朝刊=

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