【光れ!市民電力 3・11から5年】<中>野菜と「二毛作」 事業に道

西日本新聞

 畑の一角で、アシタバが青々と葉を広げている。福岡県糸島市は1月に冷え込んだが、元気に育ってくれた。吉本龍一さん(38)=福岡市=は「試験栽培は成功。これで太陽光発電を始められる」と安堵(あんど)した。

 アシタバと発電。畑に太陽光パネルを取り付け、軒下でアシタバを育てる“二毛作”を計画している。九州ではあまり見かけない野菜だが、天ぷらなどの料理や健康茶に使われ、関東では1キロ千円を超えることもある。日が陰りがちな場所でもよく育ち、パネル下の土地を有効活用できることから、天候の影響を受ける太陽光発電と組み合わせ、採算性を確保する狙いだ。

 来月にも仲間4人と運営会社を設立する予定で、畑3反(約2970平方メートル)を借りる交渉も大詰めに入った。年内にまずは出力約20キロワットの発電を始められそうだ。「自然エネルギーによる市民発電所を作りたい」。東日本大震災後、東京から移住して取り組んできた構想が、今度こそ動きだした。

 吉本さんは「3・11」を境に、食やエネルギーを意識するようになった。

 住んでいた地域では地震被害はなかったのに、スーパーから水や食べ物が消え、生産地から遠い都市の脆弱(ぜいじゃく)さを実感した。娘(当時1歳)はかわいい盛り。「地方でのびのび育てたい」との思いも重なり、2011年末に移住を決めた。

 「みんなが笑顔になる社会は、自然エネルギー中心の循環型社会だ」。自ら一歩を踏み出すために、保険代理業を続ける傍ら、まず一般社団法人を設立した。市民から計2千万~4500万円の出資を募って太陽光発電所を建設し、国の「固定価格買い取り制度(FIT)」を利用して、九州電力に売電する計画を立てた。

 ところが、計画発表から間もない14年9月、FIT申し込みが殺到し安定供給ができなくなる可能性があるとして、九電は新規契約を中断した。約3カ月で再開したが、買い取る電力量が需要に応じて上限なく制限されるルールに変わった。価格も年々下がっていく。発電した全てを売る前提で採算性を考えていた吉本さんは、方向転換を余儀なくされた。

 FITをめぐっては、さらに大きな打撃を受けた市民電力もある。契約にあたり、九電から高額な「負担金」を求められたのだ。背景には、FITによる発電事業者の急増がある。

 九電が買い取る電力は同社の送変電施設を経由するため、各地で施設の増強が必要となった。建設費約6億円の発電所を予定していたある市民電力は、約10億円の負担金を示された。想定外の負担に、暗礁に乗り上げたままの計画もある。

 吉本さんは、事業計画をゼロから練り直した。

 「市民がお金を出し合う市民発電所は、どんな方法でエネルギーを作るか、自分たちで選択できる手段となる。市民の寄付や出資に頼らなくても成り立つビジネスモデルをつくろう」。そしてたどり着いたのがアシタバ畑での発電だった。

 課題はアシタバの販路開拓だ。加工して付加価値を高め、販売も手掛けたい。規模を拡大できれば耕作放棄地の有効活用や、雇用にもつながるはずだ。

 アシタバ(明日葉)は「葉を摘んでも明日にはまた新しい葉が出る」といわれる。吉本さんも、何度摘まれてもこの事業を成功させるつもりだ。

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 【ワードBOX】固定価格買い取り制度

 再生可能エネルギーを普及させるため、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスで発電した電気の全てを電力会社が買い取る制度。2012年7月に始まった。価格は普及具合などを踏まえて、経済産業省が毎年度見直す。電力会社は買い取り費用を「賦課金」として電気料金に上乗せして回収する。太陽光発電(出力10キロワット以上)は当初の1キロワット時あたり42円から年々下がり、今年4月から26円となる見通し。


=2016/03/11付 西日本新聞朝刊=

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