在宅障害者 支え手増やそう NPO理事 下川氏講演 ケアサービスの選択肢乏しく 当事者が声上げて

西日本新聞

 重い病気や障害がある人の在宅生活に詳しいNPO法人「地域ケアさぽーと研究所」(東京都)理事の下川和洋氏(50)=福岡県久留米市出身=が福岡市で3月、講演した。こうした障害者や家族が地域で生き生きと暮らすには、支え手と選択肢が乏しい現状を指摘。障害者への「合理的配慮」を求める障害者差別解消法の施行などの法整備を追い風に、当事者自らが夢や希望を口にし、発信していく大切さを語った。

 かつて都立養護学校(現特別支援学校)に勤務していた下川氏は全国各地に足を運び、重い障害児らが自宅で生活する際の課題に関する学習会や研修会で講師を務めている。今回は、障害のある人や家族と共に活動を楽しむ福岡市の認定NPO法人「ニコちゃんの会」(森山淳子代表)のイベントに招かれた。

 下川氏が問題提起したのは、重い障害児を24時間介護、看護しながら自宅で暮らす親たちを支えるサービスとして「日中一時支援や短期入所など一時的に子どもを預かる所が少ない」実態。特に痰(たん)の吸引など「医療的ケア」が必要な重症児は、たとえ医療機関でも敬遠されがちだからだ。

 トークゲストとして登壇した母親たちも思いを吐露した。気管切開している娘(8)と自宅で暮らす澤津利恵さん(44)は「自分が病気になったときの預け先がない」と訴える。気管切開を理由に短期入所を断る施設もあるといい「将来が見えない」。

 田邉紀子さん(39)の長女(11)は人工呼吸器を使う。寝る間もないほど痰吸引が必要なときがある。以前は「専門職よりも自分の方が(吸引の手技が)完璧と思い、他人に任せきれなかった」。今春、保育所に入園する弟に手がかかるようになるため、ほとんどヘルパーに頼らない暮らしから、ようやく支援サービスの活用を考え始めた。

 受け皿が限られ、信頼しづらいために利用者が少ない。それ故にサービスが広がらない悪循環-。下川氏は「一人一人大切にしたいことは違うのに(サービスなどを)選べないという貧困な状況」と強調した。

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 一方、下川氏は、こうした課題を改善するのに「今は追い風」とみる。国連の障害者権利条約批准に伴い、4月施行の障害者差別解消法は、障害者の暮らしへの「合理的配慮」を義務化。2018年施行予定の改正障害者総合支援法には、医療的ケアが必要な子どもへの支援充実も盛り込まれる方向だ。

 必要なときに、わが子を託せる人や場をどう増やしていくのか。下川氏は「障害者への配慮が行政の役割、義務になる今こそ、まず親や本人が、自分たちの困難や願いを口にすることが必要だ。言語化すれば、それに応えようと思う人が出てくる」と言う。

 従来、重い障害がある人や家族は、福祉、医療、教育、地域の関係者など、さまざまな機関から支援される「受け身」の立場だった。夢や希望を語ることで、当事者自らが「主役」となり、「支援を積極的につくる立場」(下川氏)になり得る、というわけだ。

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 登壇した中岡亜希さん(39)は、徐々に手足の筋力が衰えていく進行性の筋疾患に悩まされながら、車いすでカナダにオーロラを見に行った体験談などを披露。「患者本人が社会とつながることが大事。障害や病気があっても、友達や家族と楽しい時間を過ごせる遊びの選択肢も、もっと世の中にあったらいい」と語った。

 澤津さん、田邉さんも夢を問われ「山登りをしたい」「家族でディズニーランドに行きたい」…。会場は大きな拍手に包まれた。


=2016/03/31付 西日本新聞朝刊=

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