小1プロブレム(2)担任決まる サプライズ人事

西日本新聞

 「なぜ、私なんですか?」
 
 九州北部にある小学校。校長が交代する前日の3月31日、イシイ教諭(50代)=仮名=は前校長から校長室に呼ばれ、「新1年生の学級担任と学年主任をお願いします」と告げられた。思わず突いて出たのが、その言葉だった。

 イシイは前年度、特別支援学級の担任で、課題を抱える子どもたちをどう支援するか、学校全体のコーディネーター(指導監督)も務めていた。「小1プロブレム」をにらみ、その手腕と実績を買い、前校長は新校長とも話し合い、イシイに白羽の矢を立てた。

 イシイは定年を控えたベテラン教諭。だが、振り返って見ても、1年担任の経験は2年間しかない。「普通は、1年担任の経験豊富な先生が、学年主任になりますからね」

 それは本人はもちろん、同僚にとっても「サプライズ人事」。小1プロブレムを念頭に置いた、異例の戦略的登用だった。

 「あなたにお願いしたいんです」。前校長の話に、イシイは「分かりました」。新校長から4月1日、正式に伝えられた。

   ◇   ◇

 「教師になりたい」

 イシイがそう思ったのは、高校3年生。たまたま見たテレビで、知的障害児の発達支援施設「しいのみ学園」(福岡市)の学芸会の模様が映し出されていた。一心に太鼓やオルガンを演奏している子どもたちを見て、涙があふれた。「人格を磨く『人間教育』に携わりたい」

 大学受験では希望の教育学部には合格できず、法学部へ。在学中、中高校社会科の教員免許を取得。思いはくすぶり、教育大に通うなどして、特別支援、小学教諭免許を取得し、25歳から小学校教諭の道を歩んだ。

 だが、6年担任が多く、念願の特別支援学級を担任するようになったのは50代に入って。前任校を含めてこの5年、特別支援学級の子どもたちの指導に専念してきただけに、今回の1年担任は驚きだった。

 だが、新旧校長の意図が分からないではなかった。

 特別支援学級では、さまざまな子どもたちが学ぶ。知的障害ばかりではなく、近年では注意欠陥多動性障害(ADHD)など情緒・発達障害の子どもたちも増える傾向にある。

 子どもたちと接し、感じるのは「純粋さ」だ。

 「子どもたちは、集団で叱られ、家で叱られ、負い目や恥ずかしさ、自己肯定感(自尊感情)の低下に陥っている。僕のことをもっと聞いて、僕だけの先生でいて…。それはある意味、素直な叫びでもある」

 教育の視点ばかりでなく、医学、福祉の視点も含めた回復プログラムを実践。「叱る」のではなく「褒める」ことに主眼を置いた指導に努めた。

 例えば、1・2年生合同、わずか数人の特別支援学級。2年生の子どもに「君は先輩なんだから」と繰り返し、長所を褒めた。やがて、その2年生は、1年生から「先輩」と呼ばれるように。1人が変われば、クラス全体が変わっていった。

 そうしたイシイの奮闘ぶりと行動力を校長、教頭らはちゃんと見ていた。

   ◇   ◇

 「だから、プレッシャー(重圧)もありますよね」

 新1年生4クラスの担任は、前年度まで特別支援学級担任だった50代2人と、中堅40代、若手20代が務めることになった。イシイは、その4人でランチを囲みながら、チームの強みをどう生かすか、学年主任として考えているという。

 ただ今は、教材を何にするか、入学式で説明する内容、名簿や配布物品など、準備作業に追われている。「子どもが、行きたいと思うような学校にしたいですよね」とイシイ。楽しみでもあり緊張の入学式は目前に迫っていた。

原因は「家庭のしつけ」?

 東京学芸大の研究者が、全国の市町村教育委員会を対象にアンケート(回答1156)したところ、小1プロブレムの原因として「家庭のしつけ」を多くが挙げた。幼稚園・保育園と小学校の「幼保小連携」「接続教育」を考える資料として、文部科学省が公表したデータだ。

 子どもたちが学校で落ち着いて勉強したり、集団行動を取れなかったりする要因の一つとして「家庭の教育力低下」を挙げる識者は少なくない。家庭で親子が接したり、一緒に食事をしたり、話し合ったりする時間の減少が、入学前に習得すべき基本動作の乱れにつながっているとする。

 ただ、保護者を対象にしたアンケートでは、別の傾向が浮かぶだろう。学校と家庭の連携も大きな課題になっている。

=2016/04/10付 西日本新聞朝刊教育面=

PR

教育 アクセスランキング

PR

注目のテーマ