味わう喜び あなたにも 亡夫の闘病支えたスープ 商品化目指す 朝倉市の福丸未央さん(48)

西日本新聞

自宅の縁側で肩を寄せ合う福丸未央さん(左)と裕明さん=昨年9月、福岡県朝倉市 拡大

自宅の縁側で肩を寄せ合う福丸未央さん(左)と裕明さん=昨年9月、福岡県朝倉市

 昆布、梅干し、玄米をことこと煮込んだスープ。福岡県朝倉市の山あいに住む福丸未央さん(48)は「いとしのスープ」の名で商品化を進めている。昨年12月にがんで亡くなった夫裕明さん(享年56)が闘病中、一滴残さず飲み干し、満足そうな顔をしたのが忘れられない。「多くの患者にも届けたい」。身をもって、味わう喜びを教えてくれた夫との二人三脚が続く。

 2人は2011年6月に結婚し、その後、山あいの一軒家で暮らし始めた。別々の農産物直売所で働き、「農と食」をテーマに地域づくりに励む“同志”だった。

 「歯が痛い」。新婚間もない11年8月、裕明さんが訴えた。大学病院で「口腔(こうくう)がん」と告げられた。入院し放射線治療を受け、すぐ退院。「こんなに簡単なの?」。拍子抜けしたのもつかの間、12年8月に再発。手術で舌の一部も切除し、うまく話せなくなった。

 「これからは生きたいように生きよう」。共に産直を退職し、「農と食」をテーマにした地域づくりの仕事に専念した。イベントを催すと、都市部からも家族連れが集まった。裕明さんも一緒に農作業をした。

 15年2月、がんが再々発。リンパ節への転移も判明した。延命治療は望まず、普段の生活を続けた。秋には腫瘍が口からはみ出るほどの大きさに。食事も呼吸も難しくなった。胃ろうの手術を受け、緩和ケアも始めた。

 ある日、未央さんが作った、カブと小松菜のスープの香りに裕明さんが目を細めた。自ら、吸い飲みを使って、唇と腫瘍のわずかな隙間から流し込むと、にっこりうなずいた。

 スープ作りが日課になった。「味を感じるのがうれしかったみたい。グルメだったから」。夫のお気に入りは昆布だしの梅と玄米のスープで、筆談ノートでこう伝えてくれた。「いつでも飲める ごはんの時も お茶の時も」。自分を気遣い、こっそり食事を済ませていた妻と再び食卓を囲める喜びがにじむ。

 12月の早朝、訪問看護師に「このまま静かに呼吸が止まる」と教えられた。時間はひっそりと過ぎた。午前8時半、裕明さんは最期に5回、大きく深呼吸をした。生と死の境目に気付かないほど安らかだった。

 夫をみとり、1人で迎えた春。闘病を支えたスープの商品化が目標になった。自宅の小屋を改修し、加工場を作る計画だ。発案したのは裕明さんだった。未央さんは「2人分、生ききろう」と誓う。独りではないと感じている。

=2016/04/14付 西日本新聞朝刊=

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